jinbon
忙しく急き立てられる現代にあって、1日に何分かでも立ち止まり、自分の心を振り返る時間を持つことは、とても貴重です。はやる気持ちを抑えてほんの少しの間、体を動かさないで、意識が流れるままにボ~としている時間を持つだけでも、私たちのイライラは静まり、判断力と創造性が向上します。
しかしさらに私たちが、日々消耗したり爆発しそうになる自分を抑えて、平穏でありつつも豊かな内面の力に満たされた自分へと変わっていくためには、もう少ししっかりと、自分を捉える視点を養っていかなければなりません。
自分を変えるためには、まず自分を知らなくてはいけません。それでは“自分”っていったい何なのでしょうか。よく『本当の自分』を求めて自分探しをする人がありますが、果たして本当の自分なんてものがあるのでしょうか?
実際には自分自身の意識も、外部の出来事も、次々と移り変わっていき、捉えどころがありません。ぶれない自分なんて言いますが、私たちの判断も、いろいろなものに左右されて、次々と揺らいでいきます。
しかしそれでも、私たちの心の動きや、物事の判断の仕方には、1人1人がこれまで身につけてきた、独自の傾向があるものです。そしてその傾向の違いが、その人らしさを形づくります。またこの傾向の束を、自分自身に関して捉えたものが、“私”というまとまりになると言って良いでしょう。
それでは、この自分なりの物の見方や感じ方、判断の仕方の傾向というものは、どのようにすれば分かってくるのでしょうか。1つには、他の人と比べてみれば良いでしょう。そうすれば、自分が他の人よりもひがみっぽいとか、楽天的だとか、いろいろなことが分かってきます。これだけでも見えない自分が見えてきて、発見の喜びに包まれるものです。そもそも生物、いや“存在”自体が、単独であるものではなく、それを取り囲む関係性の中で初めてそのありようが決まってくるものですから、理に適った方法と言えるでしょう。「自分の中に自分はいない。自分の外で、自分は決まる。」
しかしそうは言っても、しばらく経つとその喜びも色褪せて、やっぱり何かもどかしさが残ってきます。その理由は、そもそも人との比較はあくまでも相対的なものなので、断片的には自分が垣間見えても、全体像を把握して自分を理解することは、容易なことではないからです。やっぱり何か1つの視点から、自分をト-タルに捉えられないと、治まらないのが私たちです。
また人には自尊心があるので、欠点や惨めな自分というものも、なかなか認めることが出来ません。だから感情が邪魔をして、自分を見れなくなってしまうということも生じてきます。さらには“人生の成功とは裕福になること”といったような先入観も私たちにはたくさんあって、そうした先入観の囚われも、ありのままの自分の心の傾向を見るためには、妨げとなってきます。
このように自分の心の傾向を捉えようとしても、やはり次々に捉えどころが無くなってゆき、迷宮に落ち込んで行ってしまいます。しかしそれでも、こうして自分の心を探る試みを、諦めないて下さい。効率重視の現代社会は、早く答えを出すことを求めますが、時間をかけないと分かってこないことも、本当はたくさんあるからです。探り続けていけば、やがて自分の心の中に、引っ掛かってくるものが必ず出てきます。そして誰しも、“自分が分かった”という気分に襲われる時があるものです。それではいったい、どのような時に私たちは“自分が分かった”と思えるようになるのでしょうか。
本当の自分やありのままの自分を知ろうとしても、分からなくなってきます。しかし“自分が分かった”と思える時には、必ずその発見に伴う感情が湧き起ってきているものです。自分という実体は不確かでも、この感情は確かです。それではいったいどんな感情が湧き起ってきた時に、私たちは“自分が分かった”と感じられるようになるのでしょうか。それはやはり、自分の可能性が見えてくるような分かり方が出来て、嬉しくなってくる時ではないでしょうか。このままじゃダメだという自分が見えてきても、暗い気分になるだけで、“自分が分かった”という気持ちにはなれないものです。
こう考えてくると、結局自分が見えてくるということは、自分自身を可能性のもとに捉えられて、嬉しい気分や、自分に対する信頼と希望の念が湧き起ってくるかどうかに懸かっているようです。ですから、「自分とは何か」と問うのではなく、どう捉えれば「自分が心底嬉しくなるか」と問うことが大事になってくるのです。
それではどういう捉え方をすれば、自分が嬉しくなって、自分と世界の可能性が拓けてくるのでしょうか。また逆に、どんな捉え方をすれば、心が晴れず、重く鬱屈した自分になっていってしまうのでしょうか。これに関しては、人間の心の動きの原理といったものを、少し知っていかねばなりません。それについては、次節「苦しみのわけと意義」でご一緒に考えてまいりましょう。
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