ゴンと高野山体験プロジェクト〜

パンセ通信No.160『神話の役割と3つの機能、原始共同体の神話の内容』

Oct 28 - 2017

■2017.10.28パンセ通信No.160『神話の役割と3つの機能、原始共同体の神話の内容』

皆 様 へ

1.自分の求めと人間関係
2.神話が持つ3つの機能
(1)原始共同体社会と神話の役割  (2)価値観と宇宙論の提供
(3)神話が真理と見なされた理由  (4)知恵の伝承
3.原始共同体の神話の内容

1.自分の求めと人間関係
人間の欲望は関係性の欲望で、人との関わりの中でしか自分の欲望を充たすことが出来ません。そして人との関わりの中で、つまり他者に承認(称賛)されて、また他者の欲望や思いや利益にも適って自分の欲望が充たされた時に初めて、私たちは本当の意味での自由や自己価値実現の達成感を味わうことが出来るのです。この自由と達成感を求めて、私たちはこの社会の中で他者と様々な関係を切り結んで生きていきます。家族のような日常的に共に暮らす関係から、地域の顔見知りなどの直接的人間関係、恋人や友人などの親密な関係、職場等での役割を担いあうための関係、そしてこの社会を一緒につくっている無数の人たちとの目に見えない間接的な人間関係など、私たちは多数の、しかも何層に重なった人間関係の中で、自分の求めを充たそうともがいて生きているのです。

それでは私たちは、いったいどんな求めを充たそうとして、この社会の中で他の人々との関係を切り結んでいるのでしょうか。またその関係のあり方は、私たちが自分の求めを満たすためには適したものとなっているのでしょうか。あるいはもっと自分がうまく生きていけるようになるための、関係のあり方というのは無いものなのでしょうか。いやそもそも自分が自分の求めと思っているものも、実は世の中の価値観に沿うように自分を強いているだけで、本当のところは自分を生かす求めとはなっていないのかもしれません。

こうした疑問に答えて、私たちがもっと自分をうまく生かして生きていけるようになるための参考と出来るように、パンセ通信では、引き続き原始共同体社会を人間の内面から支えていた神話の構造について、検討を進めていってみたいと思います。

なお次回のパンセの集いの勉強会は、10月30日(月)の18時から行います。月末ですのでホームシアターサークルの活動を予定しています。課題映画は1952年のフランス映画『禁じられた遊び』(ルネ・クレマン監督)です。この有名な映画を、皆さまと共にもう1度じっくりと鑑賞できればと思います。場所は渋谷区本町の本町ホームシアターです。

2.神話が持つ3つの機能
(1)原始共同体社会と神話の役割
さて原始共同体における人間の集合的欲望は、『持続的・安定的に生活を維持し、不満や葛藤を少なくして平穏な暮らしを続けていく』というものです。現代人の感覚からすると、当時の人々は、成長や発展よりも安定と継続を選択して自分たちの求めとしたと言えるでしょう。そしてこの集合的欲望から要請されてくる社会目標として、次の3つのことが出てきます。第1に「自然の生態系循環から得られる実りの範囲内で、共同体の規模を維持していく」ことです。このとによって共同体の永続的な存続を図ることが出来ます。第2には「役割分担して共同作業を行う“協働共生体”を維持していく」ことです。これにより1人で生産するよりも大きな財を生み出して、より大きく多様な欲望を充たして豊かに暮らしていく条件を整えることが出来ます。そして第3には「人間の多様な欲望を充たして、楽しみを享受出来る機会を増やしていく」ことです。これによってストレスの少ない社会を実現して、社会を安定的に持続させていくことが可能となります。

こうした人間的欲望と社会目標を実現するために、社会の仕組みや制度、そしてルール(掟・法)がつくられていきます。そしてまたその制度やルールを、人間が内面から守って自ら維持していくように仕向けていくことも必要となってきます。その役割を果たすのが前回から取り上げている神話で、人々に価値の規範を提供し、共同体成員の間に共通観念(常識)を形成していくことになります。それでは神話とは、その本質はどのようなものであり、また原始共同体社会における神話はどのような内容で、それはどのように代々受け継がれて保持されていったのでしょうか。そのことについて順を追って考えていってみたいと思います。

(2)価値観と宇宙論の提供
最初に神話の機能から考えてみたいと思います。神話が果たす役割をもう少し分けて考えてみると、次の3つの機能を取り出すことが出来ます。第1は、共同体全体が共有できる大きな価値観を提供することです。原始共同体の人々の集合的欲望とそこから要請されてくる社会目標を実現するために、原始共同体の社会では様々な制度やルールが形成されてきます。それらの制度やルールが集合的欲望や社会目標にかな適ったものなのかどうか。もしかな適ったものであればそれを受け入れて、自ら積極的に遵守していくようにならねばなりません。そこでそういう判断を行うために、確かな納得感を与える根拠が必要となってきます。その根拠と判断の基準となるような価値観や感性を提供し、人々の心の中にもそうた価値観を養って、共同体の全員が共有していく機能を神話は果たすのです。

第2の機能は、世界(宇宙)の創世や人々が生きる意味や目的、そして死の理由などを神話は提供して、人々の不安を取り除き、人間の生を安定した確かなものとしていくことです。人間の意識はあらゆるものを対象化し、その捉える領野が無限に広がり、因果の関係を辿って世界の成り立ちや人間が生きる意味について、納得が得られるまでどこまでも追求していく性向があります。つまり“なぜ”という問いを無限に続けていくのが人間なのです。この“なぜ”の問いの連鎖に、納得感をもって体系的に答えることの出来る世界観、人間観を得ることを人間は必要とし、それが出来なければ人間は実存的な不安を抱えたままで安定して生きていくことは出来ません。この世界観・人間観を提供するのが神話(宇宙論)の役割なのです。

(3)神話が真理と見なされた理由
この世界観・人間観が共同体の価値観と結びついて、共同体の社会目標の実現を支えていくのです。神話は現在の私たちから見れば、きわめて非科学的でまた稚拙な方法で世界や価値の説明を与えるにしか過ぎないように思われます。それが何故当時の人々にとっては、深い納得感や真理感をもって受け入れられたのでしょうか。1つにはその説明が、稚拙なものであれ何であれ、当時の人々の集合的欲望(そこには自分の欲望も含まれている)にうまく当てはまったものであったということです。2つ目には、神話が人々の集合的に求めるものをよく表現しているが故に、その共同体の人々の誰もがその内容を疑うことなく受け入れたということです。誰もが信じていること、他の人に聞いてもそれはそうだと賛同の得られることは重要なしんぴょう信憑の根拠となり、私たちに確かな納得感や真実性を与える根拠となります。もちろん当時は、共同体ごとに独自の神話を持っていたが故に、他の部族では自分たちの神話は受け入れられません。しかしほとんど自分の部族の中だけで生涯を終えた原始共同体の人々にとっては、自分の部族が全世界であり人生の全てであったのです。それ故に自分たちが部族で共有する神話は、世界と人間を説明する真理として十分に機能し得たのです。

そして3つ目は、神話は物語としてつくられ、語られたということです。原始共同体の世界においては、異なる部族間で価値観を分かち合おうとしても、世界観(価値観)を集約する神話が異なるためにコミュニケーションが取れません。お互いが自分の神話こそ真理だと主張して言い争うだけです。そのために、物語では無く異なる文化の人々の間でも共通了解できる“概念”でコミュケーショを取る必要が出てきます。(これが地中海交易により様々な文化が出会うことになったギリシアのミレトスで、BC6世紀頃に初めて哲学が誕生した理由です)。ところが同じ共同体の中では、人々は集合的欲望を共有し同じ生活感覚にあるため、概念で語る必要は無く物語を共有することで事足ります。物語と概念の違いは、現代で言えば小説と論文(あるいは哲学)との相違のようなもので、小説の方がよほど感性に訴えて面白く、印象深く受け取ることが出来るのです。それ故に物語として語られる神話は、無味乾燥な教訓集(例えばべからず集)などよりはよほど深い感銘と共感をもって、人々の心の中に刻みこまれることになるのです。

(4)知恵の伝承
神話が持つ機能の第3は、知恵の伝承です。例えば自然の生態系循環を壊すことなく産物を得るという行為を考えただけでも、たくさんの知恵が必要になってきます。また役割分担して共同作業で生産を行い、公正なルールで産物の分配を行う協働共生体という経済システムについても、それを維持していくためには多くの知恵が必要となってきます。こうした原始共同体の仕組みを維持し、その社会目標を実現していくための知恵の数々を、物語の中に編み込んで伝承していくことも神話の役割となります。

ところで神話の中に組み込まれる知恵は、原始共同体社会の集合的欲望を充たすために特有な知恵の数々ばかりではありません。なぜなら人間の集合的欲望が変化して、原始共同体とは異なる社会形態が生まれることもあるからです。しかし例え人間の集合的欲望が変化したとしても、他者や自然との関係の中で自分のいのちを生かしていかなければならない人間にとっては、生きていくためにどうしても必要な普遍的な知恵(智慧)といったものがあります。神話の中には、こうして人が人として生きていくためにどうして必要な知恵、つまり普遍的な智慧も織り込まれて、その叡智をも受け継いでいく役割も神話は果たしていくのです。

3.原始共同体の神話の内容
さてここまで、神話の持つ3つの機能について考えてきました。神話というのは(その本質は)、価値観の提供、世界と生の意味の提供、知恵(智慧)の継承という3つの機能を通じて、社会を見えない(文化の構造として)所から支える役割果たすものです。それでは原始共同体社会における神話というのは、具体的にはどのような物語の内容を持つものだったのでしょうか。

基本的には原始共同体の集合的欲望や3つの社会目標に沿った価値観を提示すること、そして宇宙論(世界の生成と終末、人間の役割と生と死の意味等)、および知恵と智慧の継承等が盛り込まれることになります。そしてそれらの内容を含んだうえで、それを不思議やサスペンス、血沸き肉躍る英雄譚や悲劇や教訓譚などで脚色し、人間の興味を惹きつけて飽きさせることのない壮大な物語の連なりとして全体を仕上げていくのです。その物語の概要と、原始共同体社会において神話がどうつくられどう語り継がれていったのかについて、次回のパンセ通信で考えていってみたいと思います。

なお次回のパンセの集いの勉強会は、10月30日(月)の18時からで、月末ですのでホームシアターサークルの活動を予定しています。課題映画は1952年のフランス映画『禁じられた遊び』(ルネ・クレマン監督)です。場所は渋谷区本町の本町ホームシアターで行います。お時間許す方はご参加下さい。

P.S. 現在パンセ通信は、No.157まで校正・加筆したものをパンセ・ドゥ・高野山のホームページにアップしております。ご興味のある方は、以下のサイトをご覧下さい。

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