■2017.9.2パンセ通信No.152『 社会の本質と3つの特質、文化のシステムを考える視座』
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1.人間の欲望と社会
自己意識を持つ人間の欲望の本質というのは、自分の生存条件の向上と自己価値の発揮を可能とするために、他者からの協力と承認を相互に求めあって展開していく、関係性の欲望です。関係性の欲望は、時に協和して力づけられ、時に衝突して傷つきながら、無限に展開していきます。社会というのは、こうした人間の相互に求める欲望(目的)によって、無数の関係(生活、人生ゲーム)が織り成される場として形成されてくるのです。
しかし社会は、そうした無数の諸関係がその内部で展開される、単なる器のようなものではありません。私たち人間は、直接的な人間関係や間接的な人間関係など様々な次元での関係性を築き、意図せざるうちに(個人的には日常生活を営んでいる内に)相互に依存したり支援したりしながら、自分たちの欲望をその関係性を通じて実現しようとしていくのです。社会というのは単なる器では無く、こうした関係性の総体そのものなのであり、それ故に人間の欲望が様々にぶつかりあったり合わさりあったりしながら、調整されつつ集合してきた欲望の集積体を実現する仕組みなのです。
今回はこの社会について、その本質的なありよう様を整理した上で、引き続いて原始共同体社会を対象としてその構造を明らかに、現代の課題に対処していくための糸口を見出す作業を続けていってみたいと思います。なお次回のパンセの集いの勉強会は、9月4日の月曜日18時からで、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターで行います。
2.社会の本質と3つの特質
(1)社会の本質
人間の欲望に本質があり、その本質を実現するために各々が自分なりの生きる目的を抱いていくように、欲望の集合体としての社会も、その関係性の力動状況に応じて全体としての目的を持っていくことになります。もちろんその目的は固定的なものではなく、人間の生きる目的の変化や様々な目的の力関係によって変容していくものではあるのですが、やはりその時々において社会もまた、全体としての(集合的)目的を確かに持ってくることになるのです。そしてその目的を実現いていくために、社会は必要な仕組みを機能として備えるようになり、そしてその目的を目掛けての関係性のゲームを、(関係性の総体としての)社会の解体を防ぎつつ展開していくことになるのです。
こうした理解から、社会というものの最も中心的な性質を誰もが共通了解出来るように言い表してみる(本質)ならば、「社会とは人間の欲望が織り成す関係性の総体であり、その欲望の総和から定まる目標を持ち、その目標を実現するための仕組みと機能を備える」というように表現して良いと思われます。
(2)社会の3つの特質
このように社会を理解してみることから、その特質について大きく3つのことが見えてくるように思われます。第1に社会は、人間が各々自分の欲望を実現しようと切り結ぶ関係の総体なので、様々な欲望の相互間での干渉状況が生まれ、その力動的な(衝突したり合わさったり)相克を経ることによって、時々の社会全体の目的が形成されてくることになるということです。それ故に人間の本質的な欲望と、時々の社会の目的とは必ずしも一致しないということが生じてきます。端的な例で言えば、本源的な欲望では、人間は誰もが生活の向上を願うのに、社会(国家)の目的としては、戦争に勝利するために国民に耐乏を強いるということも生じてくる等です。逆に言えば、もし人間の本質的な欲望と社会の目的を一致させることが出来るような、総体としての社会の関係性と仕組みをつくることが出来るなら、その時から社会の本当の意味での(本質的な)展開が始まることになってくるのです。
第2に社会は、その目的に沿って仕組みや機能を整えていきますから、急激で人為的な目標の転換(革命による政権交代や征服などによる為政者の交代)に際しては、制度や仕組みが対応できず、大変な混乱ときし軋みが生じ、場合によっては解体の危機にひん瀕するということです。一方で社会全体の集合的目的というのは、人々のニーズや力関係の変動によって無意識的に変化していく場合もあります。そしてこの目的の変化につれて、社会の仕組みや機能も気づかぬ内にシフトしている場合もあるのです。そしてその当時の政治権力の掲げる目標が、社会の実態とそご齟齬をきたし、社会の動きとあつれき軋轢を生じる場合も出始めてきます。丁度近代の始めに、封建制の王侯貴族支配体制の内部で、貨幣・市場経済と資本主義、そして近代市民社会の理念と機能が着々と進展していったようにです。こうした場合には、逆に政治目標と政体を社会の実態に即して変更していく圧力が高まり、それを行わないために生じる矛盾が激化していくことになるのです。
(3)自由な関係形成と社会の構造転換
第3に、近代以降の変化に伴って顕在化してきた特質です。封建制以前の社会では、(身分)制度に固定されることによって人間は自分の存在意義を確認してきましたが、近代以降私たちは、そこから解き放たれて、原理的には自由に自分たちで関係を築ける(職業選択や結婚の自由等)ようになりました。このことは自分の存在価値を、社会から固定的・自動的に与えられるのではなく、他者と自由に関係を築く中で、自分の価値を発揮することを通じて自分の存在価値を確認していかなければならなくなったことを意味します。こう表現するとこのことは、一見デメリットのようにも思えるのですが、同時に大きなメリットでもあることは間違いありません。なぜなら自分が築く関係と能力・努力次第で、自分の生来の出自に縛られることなく、自由に自分の可能性を拡げて、どこまでも自己価値を拡大していくことが出来るからです。
冒頭に申し上げたとおり、自己価値の発揮を求める欲望は人間(特に近現代人)に本源的で、しかも強烈なものです。それ故にその実現を求めて、自由に関係性を築きまた組み替えて人生ゲームを展開していくことが、現代の人間の求めとなり、また現代社会の中心的なゲームとなってくるのです。このことと、社会が関係性の総体として形成されていることを考え合わせてみるなら、私たちが自由に新しい関係性のゲームを生み出してプレイし始めるということは、その新たな関係性によって、社会の構造変化に影響を及ぼすことが出来るということを意味するようになってきます。このように近代に至って始めて人類は、人間は社会を変えるための本質的な可能性があるというレベルに留まるのでは無く、私たちの各自がそれぞれの人生ゲームをプレイしていく中で、社会の構造転換を図っていくことの出来る原理的可能性を、手にすることが出来るようになったのです。
3.現代の社会の課題と目標
(1)現代の社会の課題
さて前々回のパンセ通信において、現代の社会(世界)の課題を整理してみました。それは次の4つに集約することが出来ます。まず1つ目は資源の不足と環境破壊の問題が、地球的規模で限界を迎えつつあることです。そして2つ目は、格差の拡大を加速させる動きが、市場経済の機能や自由な競争のシステムを歪めつつあることです。3つ目は、国民の生存(生存権)を確実に保障することと、各人の多様な自己価値発揮の取り組みを相互に承認しあって、自由な価値創造を促進する社会を実現することです。そして社会全体としての将来の展望と持続的な発展の契機を取り戻していかなければならないことでしょう。
最後に4つ目としては、各国間での緊張と過度の競合の要因を縮減して、世界の協力と協調体制を確かなものとして構築していくことでしょう。各国間の経済的競争の激化が、再び軍事的緊張をも高め、それが抑圧となって、現在の私たちの生活条件の向上と自由な価値創造社会の進展をはば阻んでいるからです。
(2)現代の社会の目標
こうした現代社会の課題を認識し、さらにそれを再整理することから、現代に生きる私たちが集合的に希望として抱くことの出来る社会の目的を、次の3つに集約していく提示することが出来ると思われます。その第1は、世界が協力して、地球生態系規模での自然との資源・エネルギー循環社会の実現を可能とするために、高度な科学技術の開発を進めていくことです。それによって、途上国を含めた人間の生存条件・生活条件の向上を含めた、持続的成長可能社会のビジョンと道筋を示すことです。第2は、市場経済と資本主義が、ゼロサムゲームと経済的格差を拡大する原理しか持たないのかどうかを、もう1度原理的に検証することです。そしてもし持続的成長と、配分と競争の公正さを確保する可能性を見出すことが出来るなら、その条件を明確にして、もう1度市場経済と資本主義をベースとした、人間の生存条件を向上させるための経済の原理を再設定することです。
そして第3は、普遍循環社会や公正な持続的経済成長社会を実現するためのイノベーションを促進していくためにも、社会の成員のすべてが、自己価値(人間的価値)の発揮を相互に承認し合ってその取り組みを支援していくような、価値創造社会の仕組みをつくっていくことを目指していくことでしょう。こうした3つの目標を目指しての取り組みを、世界が連携して進めることの出来る時、生存条件の危機や自己価値発揮の機会を奪われていることから頻発してくる“テロ”活動も、原理的には根絶していくこが出来るものと思われます。
4.社会の構造分析の推進
(1)社会の構造転換のプロセス
以上上記において、現代の社会が潜在的に求めつつある目標を、3つにまとめて仮説的に設定してみました。現代の社会においては、2(3)で述べたように、私たちが自由に関係性を築き直して新しいゲームを始めていく中で、社会を構造転換していく原理があります。そうした社会の構造転換に結びつく関係ゲームを創出していくための第1歩は、人間の生き方や経済・社会のあり方について、ある原理(誰が考えてもそう考えることが妥当であること)を示してビジョン化し、それに対する共感と共通了解を得ていくことでしょう。こうして共通了解する人々の数が増えていけば、やがてそうした人々を中心とした新しい関係性のゲームの実践が生まれ、そこに生じてくる現実が、社会の構造転換を少しずつ促していくものと思われます。
そのためには上記に仮説的に設定した現在の社会の目標を、さらに原理的に吟味し、広範な人たちに共感と共通了解を得られるような現実的なビジョンへと練り鍛えていくことが必要です。そのことを可能とするために、まずは現在進めている原始共同体社会を対象とした、人間と社会についての構造の分析をさらに進めていきたいと思います。
(2)社会が内包する4つのシステム
さてここまで、人間の欲望の本質(生存条件の向上と自己価値の発揮を求め合う関係性の欲望)と社会の本質(人間の欲望が織り成す関係性の総体であり、集合的目的とそれを実現する仕組みを内在する)について見てきました。そして前回までに原始共同体社会を最初の対象として、社会がその目的を実現するための仕組み(システム)とそのシステムの機能について考えてきました。
社会がその目的を実現するために内包する仕組みは4つです。経済と政治と文化と個人の私的で自由な生活領域の4つのシステムです。経済は人間の生活を支える資材をつくって供給するための機能を果たす仕組みで、生産、分配、消費の3つのプロセスから構成されます。政治は、社会の方向性についての合意形成を図り、その目的実現のためにルールを定めてゲームを展開し、またそのル-ルを順守させるための強制力を担う仕組みです。そのプロセスは、方針とルールの設定、ルールに基づくゲームの展開、そして懲罰(強制力)によるルールの順守と社会秩序の維持という、3つの機能から構成されることを前回までに見てきました。
5.文化のシステム
次に文化のシステムについて考えていかなければならないのですが、文化のシステムというのもまた、3つの機能から構成されてきます。その第1は、人間の内面に価値規範を形成し、無意識の内に欲望を抑制・調整する機能です。個人の内面に形づくる規範によって、社会のルールや制度を人間がkおの自ずから順守するようになること通じて、社会の統合への求心力を高めていくのです。第2の機能は、例えば芸術的な創作活動等を通じて自己価値を発揮し、それを相互に評価(批評)しあうことで、世間一般に評価される価値を高めていくような、普遍的な価値承認を行うための文化ゲームを展開することです。そして3つ目は、日々の何気ない日常の中で、様々な思いを抱きながら、生きる糧や指針を得ていく生活文化としての機能です。
こうした文化のシステムの内容については、引き続き原始共同体社会を対象として、次回以降に詳しく見ていくことにしたいと思います。なお次回のパンセの集いの勉強会は、9月4日の月曜日18時からとし、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターで行います。お時間許す方はご参加下さい。
P.S. 現在パンセ通信は、No.150まで校正・加筆したものをパンセ・ドゥ・高野山のホームページにアップしております。ご興味のある方は、以下のサイトをご覧下さい。
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1.人間の欲望と社会
自己意識を持つ人間の欲望の本質というのは、自分の生存条件の向上と自己価値の発揮を可能とするために、他者からの協力と承認を相互に求めあって展開していく、関係性の欲望です。関係性の欲望は、時に協和して力づけられ、時に衝突して傷つきながら、無限に展開していきます。社会というのは、こうした人間の相互に求める欲望(目的)によって、無数の関係(生活、人生ゲーム)が織り成される場として形成されてくるのです。
しかし社会は、そうした無数の諸関係がその内部で展開される、単なる器のようなものではありません。私たち人間は、直接的な人間関係や間接的な人間関係など様々な次元での関係性を築き、意図せざるうちに(個人的には日常生活を営んでいる内に)相互に依存したり支援したりしながら、自分たちの欲望をその関係性を通じて実現しようとしていくのです。社会というのは単なる器では無く、こうした関係性の総体そのものなのであり、それ故に人間の欲望が様々にぶつかりあったり合わさりあったりしながら、調整されつつ集合してきた欲望の集積体を実現する仕組みなのです。
今回はこの社会について、その本質的なありよう様を整理した上で、引き続いて原始共同体社会を対象としてその構造を明らかに、現代の課題に対処していくための糸口を見出す作業を続けていってみたいと思います。なお次回のパンセの集いの勉強会は、9月4日の月曜日18時からで、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターで行います。
2.社会の本質と3つの特質
(1)社会の本質
人間の欲望に本質があり、その本質を実現するために各々が自分なりの生きる目的を抱いていくように、欲望の集合体としての社会も、その関係性の力動状況に応じて全体としての目的を持っていくことになります。もちろんその目的は固定的なものではなく、人間の生きる目的の変化や様々な目的の力関係によって変容していくものではあるのですが、やはりその時々において社会もまた、全体としての(集合的)目的を確かに持ってくることになるのです。そしてその目的を実現いていくために、社会は必要な仕組みを機能として備えるようになり、そしてその目的を目掛けての関係性のゲームを、(関係性の総体としての)社会の解体を防ぎつつ展開していくことになるのです。
こうした理解から、社会というものの最も中心的な性質を誰もが共通了解出来るように言い表してみる(本質)ならば、「社会とは人間の欲望が織り成す関係性の総体であり、その欲望の総和から定まる目標を持ち、その目標を実現するための仕組みと機能を備える」というように表現して良いと思われます。
(2)社会の3つの特質
このように社会を理解してみることから、その特質について大きく3つのことが見えてくるように思われます。第1に社会は、人間が各々自分の欲望を実現しようと切り結ぶ関係の総体なので、様々な欲望の相互間での干渉状況が生まれ、その力動的な(衝突したり合わさったり)相克を経ることによって、時々の社会全体の目的が形成されてくることになるということです。それ故に人間の本質的な欲望と、時々の社会の目的とは必ずしも一致しないということが生じてきます。端的な例で言えば、本源的な欲望では、人間は誰もが生活の向上を願うのに、社会(国家)の目的としては、戦争に勝利するために国民に耐乏を強いるということも生じてくる等です。逆に言えば、もし人間の本質的な欲望と社会の目的を一致させることが出来るような、総体としての社会の関係性と仕組みをつくることが出来るなら、その時から社会の本当の意味での(本質的な)展開が始まることになってくるのです。
第2に社会は、その目的に沿って仕組みや機能を整えていきますから、急激で人為的な目標の転換(革命による政権交代や征服などによる為政者の交代)に際しては、制度や仕組みが対応できず、大変な混乱ときし軋みが生じ、場合によっては解体の危機にひん瀕するということです。一方で社会全体の集合的目的というのは、人々のニーズや力関係の変動によって無意識的に変化していく場合もあります。そしてこの目的の変化につれて、社会の仕組みや機能も気づかぬ内にシフトしている場合もあるのです。そしてその当時の政治権力の掲げる目標が、社会の実態とそご齟齬をきたし、社会の動きとあつれき軋轢を生じる場合も出始めてきます。丁度近代の始めに、封建制の王侯貴族支配体制の内部で、貨幣・市場経済と資本主義、そして近代市民社会の理念と機能が着々と進展していったようにです。こうした場合には、逆に政治目標と政体を社会の実態に即して変更していく圧力が高まり、それを行わないために生じる矛盾が激化していくことになるのです。
(3)自由な関係形成と社会の構造転換
第3に、近代以降の変化に伴って顕在化してきた特質です。封建制以前の社会では、(身分)制度に固定されることによって人間は自分の存在意義を確認してきましたが、近代以降私たちは、そこから解き放たれて、原理的には自由に自分たちで関係を築ける(職業選択や結婚の自由等)ようになりました。このことは自分の存在価値を、社会から固定的・自動的に与えられるのではなく、他者と自由に関係を築く中で、自分の価値を発揮することを通じて自分の存在価値を確認していかなければならなくなったことを意味します。こう表現するとこのことは、一見デメリットのようにも思えるのですが、同時に大きなメリットでもあることは間違いありません。なぜなら自分が築く関係と能力・努力次第で、自分の生来の出自に縛られることなく、自由に自分の可能性を拡げて、どこまでも自己価値を拡大していくことが出来るからです。
冒頭に申し上げたとおり、自己価値の発揮を求める欲望は人間(特に近現代人)に本源的で、しかも強烈なものです。それ故にその実現を求めて、自由に関係性を築きまた組み替えて人生ゲームを展開していくことが、現代の人間の求めとなり、また現代社会の中心的なゲームとなってくるのです。このことと、社会が関係性の総体として形成されていることを考え合わせてみるなら、私たちが自由に新しい関係性のゲームを生み出してプレイし始めるということは、その新たな関係性によって、社会の構造変化に影響を及ぼすことが出来るということを意味するようになってきます。このように近代に至って始めて人類は、人間は社会を変えるための本質的な可能性があるというレベルに留まるのでは無く、私たちの各自がそれぞれの人生ゲームをプレイしていく中で、社会の構造転換を図っていくことの出来る原理的可能性を、手にすることが出来るようになったのです。
3.現代の社会の課題と目標
(1)現代の社会の課題
さて前々回のパンセ通信において、現代の社会(世界)の課題を整理してみました。それは次の4つに集約することが出来ます。まず1つ目は資源の不足と環境破壊の問題が、地球的規模で限界を迎えつつあることです。そして2つ目は、格差の拡大を加速させる動きが、市場経済の機能や自由な競争のシステムを歪めつつあることです。3つ目は、国民の生存(生存権)を確実に保障することと、各人の多様な自己価値発揮の取り組みを相互に承認しあって、自由な価値創造を促進する社会を実現することです。そして社会全体としての将来の展望と持続的な発展の契機を取り戻していかなければならないことでしょう。
最後に4つ目としては、各国間での緊張と過度の競合の要因を縮減して、世界の協力と協調体制を確かなものとして構築していくことでしょう。各国間の経済的競争の激化が、再び軍事的緊張をも高め、それが抑圧となって、現在の私たちの生活条件の向上と自由な価値創造社会の進展をはば阻んでいるからです。
(2)現代の社会の目標
こうした現代社会の課題を認識し、さらにそれを再整理することから、現代に生きる私たちが集合的に希望として抱くことの出来る社会の目的を、次の3つに集約していく提示することが出来ると思われます。その第1は、世界が協力して、地球生態系規模での自然との資源・エネルギー循環社会の実現を可能とするために、高度な科学技術の開発を進めていくことです。それによって、途上国を含めた人間の生存条件・生活条件の向上を含めた、持続的成長可能社会のビジョンと道筋を示すことです。第2は、市場経済と資本主義が、ゼロサムゲームと経済的格差を拡大する原理しか持たないのかどうかを、もう1度原理的に検証することです。そしてもし持続的成長と、配分と競争の公正さを確保する可能性を見出すことが出来るなら、その条件を明確にして、もう1度市場経済と資本主義をベースとした、人間の生存条件を向上させるための経済の原理を再設定することです。
そして第3は、普遍循環社会や公正な持続的経済成長社会を実現するためのイノベーションを促進していくためにも、社会の成員のすべてが、自己価値(人間的価値)の発揮を相互に承認し合ってその取り組みを支援していくような、価値創造社会の仕組みをつくっていくことを目指していくことでしょう。こうした3つの目標を目指しての取り組みを、世界が連携して進めることの出来る時、生存条件の危機や自己価値発揮の機会を奪われていることから頻発してくる“テロ”活動も、原理的には根絶していくこが出来るものと思われます。
4.社会の構造分析の推進
(1)社会の構造転換のプロセス
以上上記において、現代の社会が潜在的に求めつつある目標を、3つにまとめて仮説的に設定してみました。現代の社会においては、2(3)で述べたように、私たちが自由に関係性を築き直して新しいゲームを始めていく中で、社会を構造転換していく原理があります。そうした社会の構造転換に結びつく関係ゲームを創出していくための第1歩は、人間の生き方や経済・社会のあり方について、ある原理(誰が考えてもそう考えることが妥当であること)を示してビジョン化し、それに対する共感と共通了解を得ていくことでしょう。こうして共通了解する人々の数が増えていけば、やがてそうした人々を中心とした新しい関係性のゲームの実践が生まれ、そこに生じてくる現実が、社会の構造転換を少しずつ促していくものと思われます。
そのためには上記に仮説的に設定した現在の社会の目標を、さらに原理的に吟味し、広範な人たちに共感と共通了解を得られるような現実的なビジョンへと練り鍛えていくことが必要です。そのことを可能とするために、まずは現在進めている原始共同体社会を対象とした、人間と社会についての構造の分析をさらに進めていきたいと思います。
(2)社会が内包する4つのシステム
さてここまで、人間の欲望の本質(生存条件の向上と自己価値の発揮を求め合う関係性の欲望)と社会の本質(人間の欲望が織り成す関係性の総体であり、集合的目的とそれを実現する仕組みを内在する)について見てきました。そして前回までに原始共同体社会を最初の対象として、社会がその目的を実現するための仕組み(システム)とそのシステムの機能について考えてきました。
社会がその目的を実現するために内包する仕組みは4つです。経済と政治と文化と個人の私的で自由な生活領域の4つのシステムです。経済は人間の生活を支える資材をつくって供給するための機能を果たす仕組みで、生産、分配、消費の3つのプロセスから構成されます。政治は、社会の方向性についての合意形成を図り、その目的実現のためにルールを定めてゲームを展開し、またそのル-ルを順守させるための強制力を担う仕組みです。そのプロセスは、方針とルールの設定、ルールに基づくゲームの展開、そして懲罰(強制力)によるルールの順守と社会秩序の維持という、3つの機能から構成されることを前回までに見てきました。
5.文化のシステム
次に文化のシステムについて考えていかなければならないのですが、文化のシステムというのもまた、3つの機能から構成されてきます。その第1は、人間の内面に価値規範を形成し、無意識の内に欲望を抑制・調整する機能です。個人の内面に形づくる規範によって、社会のルールや制度を人間がkおの自ずから順守するようになること通じて、社会の統合への求心力を高めていくのです。第2の機能は、例えば芸術的な創作活動等を通じて自己価値を発揮し、それを相互に評価(批評)しあうことで、世間一般に評価される価値を高めていくような、普遍的な価値承認を行うための文化ゲームを展開することです。そして3つ目は、日々の何気ない日常の中で、様々な思いを抱きながら、生きる糧や指針を得ていく生活文化としての機能です。
こうした文化のシステムの内容については、引き続き原始共同体社会を対象として、次回以降に詳しく見ていくことにしたいと思います。なお次回のパンセの集いの勉強会は、9月4日の月曜日18時からとし、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターで行います。お時間許す方はご参加下さい。
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