■2017.9.9パンセ通信No.153『 文化の機能と生活世界の相関-社会の構造転換への道筋』
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1.文化についての考え方
(1)広い概念での文化の定義
文化というのは、その最も広い概念で定義するならば、人間が共通に分かち持つ“知の蓄積”であり、この知のストックを通じて、人間が自分の行為やコミュニケーションの範型(パラダイム)を得る、象徴の体系ということが出来るでしょう。言語を参考にして言えば、言語活動がラング・langue(日本語、英語などの言語体系、文法)とパロール・parole(発話、言語体系を基にした具体的なおしゃべり、意思表示)に分けて考えることが出来るように、文化というのはまさに、人間活動の“ラング”にあたる部分と考えて良いでしょう。
このように広く文化を解釈するならば、人間の心の動きや行動の様式、そして経済活動や政治制度のみならず、社会そのものも文化の産物であるという捉え方が出来るようになってきます。こうした文化の捉え方は、最も広義なものとして、常に念頭に置いておくのが良いでしょう。
(2)社会内システムとしての文化
しかしパンセ通信では、これからの私たちの生き方と社会のあり方についてのビジョンを明確に描くことを目的としているために、社会の構造を分析するに際して便利なように、社会を構成する1つのシステムとしての文化について考えていってみたいと思います。前回までに人間の欲望の本質(生きる目的)は、生存(生活)条件の向上を図ることと自己価値の発揮を求める関係性の欲望であることを整理してきました。そして社会というのは、人間が欲望(目的)を充たすために結び合う(編み上げる)関係性の総体であり、社会自体もその時々における欲望の総和からなる目標を持ち、その目標を実現するための仕組みと機能を備えるものであることを、その本質として取り出してみました。文化というのは、この社会が人間の集合的目標を実現するための機能として備える、1つの仕組みであるという捉え方も出来るのです。そうした社会内システムとしての文化の機能について、引き続き原始共同体を対象にして整理を続けていってみたいと思います。
なお次回のパンセの集いの勉強会は、9月11日の月曜日18時からで、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターで行います。またその翌週については、9月18日の月曜日が敬老の日の祝日となっているために、パンセの集いの勉強会はお休みとさせて頂くことに致します。
2.文化と生活世界の相互連関
(1)文化のシステム
社会が人間の欲望を集約して持つようになる集合的目標を、実現するためにその内部に備える仕組みとしては、これまで原始共同体社会を対象に4つのシステムを取り出してきました。経済のシステムと政治のシステム、そして文化のシステムと個人の自由な生活領域の4つのシステムです。経済のシステムとは、人間のいのちと生活を賄うための食料・資材をつくって供給する機能を果たすもので、生産、分配、消費の3つのプロセスから構成されます。政治のシステムというのは、社会を統合して目的実現に向けてのゲームを展開(諸活動の推進)する機能を果たすもので、社会の方向性(目標)についての合意形成とルール設定、ルールに基づくゲームの展開、ルールの順守という3つのプロセスから構成され、社会の構成員の合意により集約された強制力(権力)を背景として、システムを機能させることを本質とします。
それでは文化のシステムというのは、社会の集合的目標を実現するためにどのような機能を果たすものなのでしょうか。先に整理して述べてしまうと、人間の内面の規範形成・維持と、社会の統合に役立つ価値の生成ゲーム(文化ゲーム)の展開と、習俗や生活様式といった生活文化という3つに分かれるプロセスによって、1つには人間の内面の側から、社会の統合と経済・政治の機能を補強・促進することを目的とするシステムと言って良いでしょう。そしてもう1つは、人間の本質的な欲望の内、生存(生活)条件の向上の欲望を充たすためのシステムが経済であるとしたなら、自己価値の発揮の求めを充たすための機能が、文化のシステムの役割と言えるのでしょう。
(2)生活世界との相関
ところで文化というのは、冒頭でも述べたように、人間の心の働きや行動の様式に範型(無意識の枠組み)を与えるもので、言語で言えばラング・langue(言語体系)に相当するものです。文化の本質は、内面の規範形成と自己価値を(文化の構造に沿って)発揮させるための機能を担うものですが、あくまでも人間の内面(無意識)に構造化された体系によって、人間の意思や行動を、社会の目的や社会を統合する方向へと無意識の内に導くのが文化の役割です。これに対してこの文化の構造の枠組みのもとで、自分の欲望に促されてその都度ごとに行う具体的な生活行為、自己価値の発揮行為が、社会を構成する4番目のシステムである個人の私的で自由な生活領域(生活世界)での活動です。言語とのアナロジー(類比)で言えば、パロール・parole(発話、言語体系に基づいた実際のおしゃべりや意思表示)に相当する分野と言って良いでしょう。
このように文化のシステムは、基本的には人間を内面から社会の目的実現と社会統合を促す方向へと導く機能を果たすことを使命とします。しかし生活世界のシステムにおいて展開されるその都度の人間の具体的な思いや行動(自由な生活行動)は、必ずしもそうではなく、文化の構造を逸脱する場合もたびたび度々生じてくるのです。言語においてラング(文法)を背景に語られるパロール(発話)が、常に新しい言葉(若者語、流行語)や用語法を生み出し、時に文法を逸脱することもあるのと同じです。そして言語においては、新しい用法が普及して積み重なってくると、ついには文法や言語体系自体にも影響を及ぼしてそれを変えていくことさえも生じてくるのです。なぜなら、もちろん個々の言葉はあくまでもラング(言語構造)をもとに発せられることになるのですが、同時に言葉交わす者の間で了解さえ出来ているのであれば、文法にのっと則らずとも「アレ」「ソレ」と言うだけで十分に(時には込み入った内容さえ)通じ合う(コミュニケーションと取る)ことが出来るからです。このためにラング(構造)とパロール(発話)との間には、常に微妙なそご齟齬が生じていくことになるのです。
3.生活世界から社会の構造転換へ
(1)価値創造の源泉となる生活世界
この言語の例と同じように、文化(人間の内面にある規範構造)と、生活世界でその都度に生成される具体的な思いや日常行為との間にも、常にそご齟齬が生じてくることになります。文化は本質的には、人間が社会の枠組みの中で欲望を充たし、そこから逸脱して秩序を破壊することを防ぐための仕組みです。人間はこの内面の構造(規範)に沿って無意識の内に考え、行為するのですが、一方で現実の状況も自分の内面の状況も都度複雑に変化していき、非常に多様に展開していきます。日常の生活世界において私たちは、その多様な状況の瞬時を捉えて自分の欲望を充たそうとするのですから、いくら内面の文化規範の枠組みに基づいて考え行動したとしても、どうしてもその枠組み逸脱してしまうことが生じてきてしまうのです。
こうして社会がその集合的目標を実現するための機能として持つ4つ目のシステム、個人のプライベートで自由な日常生活領域での活動においては、日々文化の構造に沿ってそれを強化する思いや実践が生起してくると同時に、気づかぬ内にそこから逸脱する感性や行為も生成されてくることになるのです。そしてこうした個人の自由な日常生活が、既存の文化構造を越え出て新たな潮流や文化ゲームを生んでいく、価値創造の源泉ともなっていくのです。社会の支配階層は、こうした庶民の生活世界における日常活動の、文化システムに対する両義的性格を良く承知しています。それ故に近代以前の領邦性国家においては、領民の私生活を宗教的道徳観によって統制し、近代以降の独裁制国家においては、強権による恐怖を背景として、全体主義的思想等によって国民の私生活と内面までをも動員しようと様々な手段を尽くすようになるのです。しかし自己意識の欲望を持つ人間の本質から、人々は建前では統制に従っても、完全に私生活の自由と内面の自由を国家と宗教の統制に捧げ尽くして、自分自身を圧殺しさることなどは、けっして可能なことでは無いのです。
(2)日常行為の凝集と生活文化、文化ゲームの変様
さて前回のパンセ通信で、社会の本質と3つの特質について整理しましたが、その3番目の特質として挙げたのが、私たちによる自由な関係形成と社会構造の転換の可能性です。特に近代以降の社会において人間は、身分制度から解き放たれて自由に関係を築き、自己価値を発揮するための人生ゲームを思い思いに展開する可能性を得ることが出来るようになりました。社会はこうした人間の関係性の総体として形成されてくるのですから、私たちは自分を生かすための新しい関係性を築くによって、社会を構造転換していく可能性を原理的に拓いていくことが出来るようになったのです。
そしてその新しい関係を築く最初の契機となるのが、個人の自由な生活世界での日常行為なのです。そこで生じた文化の構造から逸脱する小さな思いや行動の数々が、やがて積み重なって凝集し、同じ思いの他者と共鳴して小さな関係をつくり出し、その関係が増幅していってまず生活文化(文化のシステムの3つ目のプロセス)に影響を与えます。これによって生活世界での感受性(微妙な価値観の変化)に変化が現れるようになってくれば、芸術などの創作活動や社会的ステータスとなる教養を身に着けるような制度化された文化活動のゲーム(文化のシステムの2つ目のプロセス)にも影響を与えるようになってくるのです。つまり制度化された文化活動ゲーム(例えば芸術活動)において、表現される内容に変化が生じ、また求められる教養の内容にも変化が生じるようになってくるのです。
4.社会構造の転換のプロセス
こうして文化的価値創出ゲームでの表現目的が変化し、理想とする人生・社会ゲームのビジョンも、従来と異なる形で鋭く言い表されるようになってくると、社会全体に及ぼす影響も計り知れなく大きなものとなってきます。そしてついには政治のシステム、経済のシステム、更には文化のシステムの1番目のプロセスである、人間の内面の価値規範についてまでも構造的変化をもたらすようになってくるのです。パロール(発話)の繰り返しが、やがてラング(言語体系)に構造変化をもたらすように、私たちの日常生活実践の積み重ねが凝集して、ついには社会の集合的目標や、社会に内在する各システムの機能と仕組みをも変質させて、社会の構造転換をもたらすようになっていくのです。
パンセ通信では、これからの時代の人生・社会ビジョンを原理的に検討して明確にする作業を進めることを、大きな目標としています。同時にそのビジョンを現実に実現していくために、私たちの生活世界での日常行為から始めて社会構造の転換にまで至るプロセスについても、具体的に描き出して提示し、多くの人々の共通了解を得ていく作業も取り進めていってみたいと思っています。そのために引き続き、原始共同体を対象とした文化のシステムについて、その価値規範形成、文化活動ゲーム、生活文化という3つのプロセスを対象に詳しく検討し、現状から私たちが進み出ていくための指針を得ていくようにしていってみたいと思います。
なお次回のパンセの集いの勉強会は、9月11日の月曜日18時からで、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターで行います。お時間許す方はご参加下さい。またその翌週9月18日の月曜日については、敬老の日の祝日となっているために、パンセの集いの勉強会はお休みと致します。
P.S. 現在パンセ通信は、No.150まで校正・加筆したものをパンセ・ドゥ・高野山のホームページにアップしております。ご興味のある方は、以下のサイトをご覧下さい。
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1.文化についての考え方
(1)広い概念での文化の定義
文化というのは、その最も広い概念で定義するならば、人間が共通に分かち持つ“知の蓄積”であり、この知のストックを通じて、人間が自分の行為やコミュニケーションの範型(パラダイム)を得る、象徴の体系ということが出来るでしょう。言語を参考にして言えば、言語活動がラング・langue(日本語、英語などの言語体系、文法)とパロール・parole(発話、言語体系を基にした具体的なおしゃべり、意思表示)に分けて考えることが出来るように、文化というのはまさに、人間活動の“ラング”にあたる部分と考えて良いでしょう。
このように広く文化を解釈するならば、人間の心の動きや行動の様式、そして経済活動や政治制度のみならず、社会そのものも文化の産物であるという捉え方が出来るようになってきます。こうした文化の捉え方は、最も広義なものとして、常に念頭に置いておくのが良いでしょう。
(2)社会内システムとしての文化
しかしパンセ通信では、これからの私たちの生き方と社会のあり方についてのビジョンを明確に描くことを目的としているために、社会の構造を分析するに際して便利なように、社会を構成する1つのシステムとしての文化について考えていってみたいと思います。前回までに人間の欲望の本質(生きる目的)は、生存(生活)条件の向上を図ることと自己価値の発揮を求める関係性の欲望であることを整理してきました。そして社会というのは、人間が欲望(目的)を充たすために結び合う(編み上げる)関係性の総体であり、社会自体もその時々における欲望の総和からなる目標を持ち、その目標を実現するための仕組みと機能を備えるものであることを、その本質として取り出してみました。文化というのは、この社会が人間の集合的目標を実現するための機能として備える、1つの仕組みであるという捉え方も出来るのです。そうした社会内システムとしての文化の機能について、引き続き原始共同体を対象にして整理を続けていってみたいと思います。
なお次回のパンセの集いの勉強会は、9月11日の月曜日18時からで、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターで行います。またその翌週については、9月18日の月曜日が敬老の日の祝日となっているために、パンセの集いの勉強会はお休みとさせて頂くことに致します。
2.文化と生活世界の相互連関
(1)文化のシステム
社会が人間の欲望を集約して持つようになる集合的目標を、実現するためにその内部に備える仕組みとしては、これまで原始共同体社会を対象に4つのシステムを取り出してきました。経済のシステムと政治のシステム、そして文化のシステムと個人の自由な生活領域の4つのシステムです。経済のシステムとは、人間のいのちと生活を賄うための食料・資材をつくって供給する機能を果たすもので、生産、分配、消費の3つのプロセスから構成されます。政治のシステムというのは、社会を統合して目的実現に向けてのゲームを展開(諸活動の推進)する機能を果たすもので、社会の方向性(目標)についての合意形成とルール設定、ルールに基づくゲームの展開、ルールの順守という3つのプロセスから構成され、社会の構成員の合意により集約された強制力(権力)を背景として、システムを機能させることを本質とします。
それでは文化のシステムというのは、社会の集合的目標を実現するためにどのような機能を果たすものなのでしょうか。先に整理して述べてしまうと、人間の内面の規範形成・維持と、社会の統合に役立つ価値の生成ゲーム(文化ゲーム)の展開と、習俗や生活様式といった生活文化という3つに分かれるプロセスによって、1つには人間の内面の側から、社会の統合と経済・政治の機能を補強・促進することを目的とするシステムと言って良いでしょう。そしてもう1つは、人間の本質的な欲望の内、生存(生活)条件の向上の欲望を充たすためのシステムが経済であるとしたなら、自己価値の発揮の求めを充たすための機能が、文化のシステムの役割と言えるのでしょう。
(2)生活世界との相関
ところで文化というのは、冒頭でも述べたように、人間の心の働きや行動の様式に範型(無意識の枠組み)を与えるもので、言語で言えばラング・langue(言語体系)に相当するものです。文化の本質は、内面の規範形成と自己価値を(文化の構造に沿って)発揮させるための機能を担うものですが、あくまでも人間の内面(無意識)に構造化された体系によって、人間の意思や行動を、社会の目的や社会を統合する方向へと無意識の内に導くのが文化の役割です。これに対してこの文化の構造の枠組みのもとで、自分の欲望に促されてその都度ごとに行う具体的な生活行為、自己価値の発揮行為が、社会を構成する4番目のシステムである個人の私的で自由な生活領域(生活世界)での活動です。言語とのアナロジー(類比)で言えば、パロール・parole(発話、言語体系に基づいた実際のおしゃべりや意思表示)に相当する分野と言って良いでしょう。
このように文化のシステムは、基本的には人間を内面から社会の目的実現と社会統合を促す方向へと導く機能を果たすことを使命とします。しかし生活世界のシステムにおいて展開されるその都度の人間の具体的な思いや行動(自由な生活行動)は、必ずしもそうではなく、文化の構造を逸脱する場合もたびたび度々生じてくるのです。言語においてラング(文法)を背景に語られるパロール(発話)が、常に新しい言葉(若者語、流行語)や用語法を生み出し、時に文法を逸脱することもあるのと同じです。そして言語においては、新しい用法が普及して積み重なってくると、ついには文法や言語体系自体にも影響を及ぼしてそれを変えていくことさえも生じてくるのです。なぜなら、もちろん個々の言葉はあくまでもラング(言語構造)をもとに発せられることになるのですが、同時に言葉交わす者の間で了解さえ出来ているのであれば、文法にのっと則らずとも「アレ」「ソレ」と言うだけで十分に(時には込み入った内容さえ)通じ合う(コミュニケーションと取る)ことが出来るからです。このためにラング(構造)とパロール(発話)との間には、常に微妙なそご齟齬が生じていくことになるのです。
3.生活世界から社会の構造転換へ
(1)価値創造の源泉となる生活世界
この言語の例と同じように、文化(人間の内面にある規範構造)と、生活世界でその都度に生成される具体的な思いや日常行為との間にも、常にそご齟齬が生じてくることになります。文化は本質的には、人間が社会の枠組みの中で欲望を充たし、そこから逸脱して秩序を破壊することを防ぐための仕組みです。人間はこの内面の構造(規範)に沿って無意識の内に考え、行為するのですが、一方で現実の状況も自分の内面の状況も都度複雑に変化していき、非常に多様に展開していきます。日常の生活世界において私たちは、その多様な状況の瞬時を捉えて自分の欲望を充たそうとするのですから、いくら内面の文化規範の枠組みに基づいて考え行動したとしても、どうしてもその枠組み逸脱してしまうことが生じてきてしまうのです。
こうして社会がその集合的目標を実現するための機能として持つ4つ目のシステム、個人のプライベートで自由な日常生活領域での活動においては、日々文化の構造に沿ってそれを強化する思いや実践が生起してくると同時に、気づかぬ内にそこから逸脱する感性や行為も生成されてくることになるのです。そしてこうした個人の自由な日常生活が、既存の文化構造を越え出て新たな潮流や文化ゲームを生んでいく、価値創造の源泉ともなっていくのです。社会の支配階層は、こうした庶民の生活世界における日常活動の、文化システムに対する両義的性格を良く承知しています。それ故に近代以前の領邦性国家においては、領民の私生活を宗教的道徳観によって統制し、近代以降の独裁制国家においては、強権による恐怖を背景として、全体主義的思想等によって国民の私生活と内面までをも動員しようと様々な手段を尽くすようになるのです。しかし自己意識の欲望を持つ人間の本質から、人々は建前では統制に従っても、完全に私生活の自由と内面の自由を国家と宗教の統制に捧げ尽くして、自分自身を圧殺しさることなどは、けっして可能なことでは無いのです。
(2)日常行為の凝集と生活文化、文化ゲームの変様
さて前回のパンセ通信で、社会の本質と3つの特質について整理しましたが、その3番目の特質として挙げたのが、私たちによる自由な関係形成と社会構造の転換の可能性です。特に近代以降の社会において人間は、身分制度から解き放たれて自由に関係を築き、自己価値を発揮するための人生ゲームを思い思いに展開する可能性を得ることが出来るようになりました。社会はこうした人間の関係性の総体として形成されてくるのですから、私たちは自分を生かすための新しい関係性を築くによって、社会を構造転換していく可能性を原理的に拓いていくことが出来るようになったのです。
そしてその新しい関係を築く最初の契機となるのが、個人の自由な生活世界での日常行為なのです。そこで生じた文化の構造から逸脱する小さな思いや行動の数々が、やがて積み重なって凝集し、同じ思いの他者と共鳴して小さな関係をつくり出し、その関係が増幅していってまず生活文化(文化のシステムの3つ目のプロセス)に影響を与えます。これによって生活世界での感受性(微妙な価値観の変化)に変化が現れるようになってくれば、芸術などの創作活動や社会的ステータスとなる教養を身に着けるような制度化された文化活動のゲーム(文化のシステムの2つ目のプロセス)にも影響を与えるようになってくるのです。つまり制度化された文化活動ゲーム(例えば芸術活動)において、表現される内容に変化が生じ、また求められる教養の内容にも変化が生じるようになってくるのです。
4.社会構造の転換のプロセス
こうして文化的価値創出ゲームでの表現目的が変化し、理想とする人生・社会ゲームのビジョンも、従来と異なる形で鋭く言い表されるようになってくると、社会全体に及ぼす影響も計り知れなく大きなものとなってきます。そしてついには政治のシステム、経済のシステム、更には文化のシステムの1番目のプロセスである、人間の内面の価値規範についてまでも構造的変化をもたらすようになってくるのです。パロール(発話)の繰り返しが、やがてラング(言語体系)に構造変化をもたらすように、私たちの日常生活実践の積み重ねが凝集して、ついには社会の集合的目標や、社会に内在する各システムの機能と仕組みをも変質させて、社会の構造転換をもたらすようになっていくのです。
パンセ通信では、これからの時代の人生・社会ビジョンを原理的に検討して明確にする作業を進めることを、大きな目標としています。同時にそのビジョンを現実に実現していくために、私たちの生活世界での日常行為から始めて社会構造の転換にまで至るプロセスについても、具体的に描き出して提示し、多くの人々の共通了解を得ていく作業も取り進めていってみたいと思っています。そのために引き続き、原始共同体を対象とした文化のシステムについて、その価値規範形成、文化活動ゲーム、生活文化という3つのプロセスを対象に詳しく検討し、現状から私たちが進み出ていくための指針を得ていくようにしていってみたいと思います。
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