ゴンと高野山体験プロジェクト〜

パンセ通信No.156『原始共同体の目標と存続条件、それを支える文化の構造』

Sep 30 - 2017

■2017.9.30パンセ通信No.156『原始共同体の目標と存続条件、それを支える文化の構造』

皆 様 へ

1.自らの拠り所を求めて
(1)政治のメルトダウン状況
9月28日に安倍首相によって衆議院が冒頭解散され、小池東京都知事が新党「希望の党」を立ち上げました。その結果民進党が事実上解体して希望の党に合流するという、予想をはるかに上まわる政治のメルトダウン状況が生じています。一体今何が起こっているのでしょうか。何故こんなことが生じているのでしょうか。そして今どんな潮流が私たちを押し包み、その潮流がどのようにぶつかり合って、条件次第でどこに向かって流れていく可能性があるのでしょうか。

人間の意識構造の本質上、私たちはまず感情と直感による条件反射で変化を捉えるものですから、当社は慌てふためくことになるのは仕方が無いでしょう。しかしその後に、少し冷静になって現実を要素に分解してそこに働く社会的な力、そして中心人物の人間的個性と欲望を丹念に辿っていくなら、ある確率のもとではありますが動きの推移は見えるようになってきます。それはもう歴史の経験を経た現代の私たちには、誰にでも出来ることなのです。

(2)拠り所を求めるマジョリティー
現代のように社会のパラダイム変化(構造変化)が起こっている時代には、社会が加速度をつけながら構造変化していきます。それ故にこれまでの人生ゲームにおける目標(社会的に成功と見なされるゴール)の達成は徐々に難しくなり、親の世代ほどの“成功”や生活水準は見込めなくなってきます。それでいながら新しい生き方モデルや社会モデルはまだ鮮明にならないものですから、不安が増大していくのは仕方の無いことなのです。そんな時に安倍首相のように、霊感商法のごとく不安を一層掻き立てて、すがれる者は自分しかいないというように見せかけて、洗脳する政治手法が現れてきます。しかしそんな政治に違和感を覚えて、潜在的に別の選択肢を求める人々も現れてきます。そうした人たちの心性につけこんで、ペテン師のごとく見せかけの霊力(政策)でたぶらかして、その場その場の人気を得ていくのが小池東京都知事の政治手法です。その一方で左派やリベラルと称せられる勢力は、旧態依然としたスローガンを掲げるだけで、気持ちは分かるが責任政党としてはとても当てには出来ず、しかも内紛で四分五裂の状態。

要は現在の日本の政治には確かな拠り所が無く、戸惑いの中に漂っているというのがマジョリティーの人々の状況で、必死に何か拠り所となれるものを求めていると言って良いでしょう。もちろん極端な思想で拠り所を持った人たちも、必ず人口の1~2割はいるもので、そんな人たちに扇動されてファシズムや極端な国家主義へと走ったのが1930年代の世界です。しかしそれはもう日本においても私たちが経験してしまったことで、同じことが単純には繰り返されないのが、現在の予想だにつかない展開に現れてきているものと思われます。

(3)政治家に好き勝手させない力に
こうした状況の中で最も好ましいことは、常に日和見的にしか動かない約8割のマジョリティーである私たちが、穏健かつ常識的で、確かな拠り所を求める方向に動いていくことによって、国や世界が滅びに向かって暴走することを食い止めることでしょう。それが集団の中でのマジョリティーの役割です(一見確かな考えをもたず、時々の風に流されて日和見的にも見えるのですが)。そして時間はかかっても、自分たちで次の時代に向けての拠り所をしっかりと見出していく努力が求められてきます。私たちは未だに政党や政治家を当てにして、ただ政策を選択するだけという受け身の姿勢が崩れていません。しかし今回の民進党議員の、自己保身のためのあまりにおぞましい姿は、今の日本の政治と政治家がいかに劣化して当てにならない存在であるかを、私たちに教えてくれるに余りある出来事であったと言えるでしょう。しかし元来(民主主義)政治というのは、政治家が人気取り的に述べる政策から気分の合うものを選んで、その時々の世の中の雰囲気で床屋談義的に批評して終わるようなものではありません。しょせん所詮いい加減な政治家の動きを、私たち自身の生活の向上のために、しっかりと制御していかなければならないのです。幸いなことに冒頭に申し上げたように、私たちはすでにその能力は備えています。後はその能力を発揮するためのスイッチを入れるだけです。

パンセ通信におきましても、そのスイッチを入れる作業の一助として、人間の欲望と社会の相関から、その動きの本質を読み取る作業を歴史に即して行い、これからの時代のビジョンを描く作業を続けていきたいと思います。次回のパンセの集いの勉強会は、10月2日月曜日で18時からスタートします。場所はいつものように渋谷区本町の本町ホームシアターで行います。

2.文化のシステム
(1)文化のシステムの3機能
さて前回は、文化のシステムが持つ3つの機能について考えてみました。文化のシステムというのは、社会が持つ経済、政治、文化、生活世界という4つのシステムの1つで、これらのシステムは、人間の欲望が集積して生まれてくる社会の目標を実現するために、それぞれ役割を持った仕組みとして機能していきます。その中で文化というのは、社会の統合と目的実現のために、人間の内面から意識的また無意識的に感性や行動(ふるまい)を、その方向へと促していく役割を担うシステムのことです。

文化のシステムには、文化構造、文化ゲーム、生活文化という3つのプロセス(サブシステム)があります。文化構造というのは、人間の意識の中に価値観や規範(ルール)を形成して無意識の領域で構造化し、社会の統合と目的実現に向けての動きを、人間の内面から導く機能のことです。文化ゲームというのは、人間の欲望、特に近代以降の人間にとって最も本質的な欲望である、自己価値の発揮とそれを相互に評価・承認する仕組みを、社会の機能として与えるプロセスです。そして生活文化というのは、慣習や風習(習俗)や生活様式など、日常生活の領域で私たちが気づかぬ内に従っている生活行為によって、私たち個々人の生活に一定の秩序を与える機能のことを意味します。

(2)文化構造、文化ゲーム、生活文化の対比
文化構造が、その社会(国家)全体の統合を維持するために主に機能するシステムであるとするなら、生活文化というのは、どちらかと言えば家族や近隣地域の人間が、共に確執少なく力を合わせて生きていくために、効率的・効果的に生活していけるようにするために機能するシステムといって良いでしょう。また文化ゲームというのは、近現代では価値創出ゲームに主に脚光が当たりますが、もちろん性的な欲望や享楽の欲望、あるいは消費と享受の欲望など、人間のあらゆる欲望を充たす機能についての仕組みも含まれます。

それではこの文化のシステムについて、まず文化構造(内面の価値規範)のサブシステムから、原始共同体社会を対象として、その機能の詳細について見ていきたいと思います。

3.原始共同体社会の目的
(1)協働共生体の機能
狩猟採取経済で生計を賄う原始共同体社会というのは、一言で言えば、『人間が与えられた自然環境の中で、持続的に生存を維持していくことを目的として形成された社会』ということが出来ます。人間も他の生き物と同様に群れをつくって生きる動物ですが、他の生物が安全や生殖機会の増大を目的として群れをつくるのに対し、唯一人間だけが協働共生体をつくり、DNAレベルに留まらない社会的発展と意識(人格)の発展(成長)を遂げることで、他の生物とはたもと袂を分かってきました。

人間以外の生物の場合には、例え群れをつくって生きていたとしても、食料を得たり消費したりするのは個体ベースで行われます。それに対して協働共生体というのは、群れ全体で役割を分担し、共同で狩猟や採取(生産活動)を行います。当然協働作業で得た産物は、ある基準で公平に分配し、全員が生存を維持するために十分な量が消費できるのでなくては、共同体内部で争いが起こり、共同体の解体が生じてしまいます。ところで協働共生体というのは、共同体の中という限られた範囲ではありますが分業(役割分担しての連携作業)を行うことによって、1人で食料を得るよりも格段に大きな生産物を手にすることが出来るようになります。こうして人間は、もはや1日中食料を求めて森や野原をさまよう生活から解放されて、自由な時間を手にするようになります。また食料以外の生活資材も生産できるようになって、住居や衣服など生活水準も向上させていくようになります。さらに役割分担した協働作業の必要からコミュニケーション能力が向上し、その能力からやがて言語も発達することになり、人間の意識構造(自分と他者を区別して、自分を自分として意識する機能。自分を中心に世界を対象として捉える自己意識)を一層高度にしていくことになるのです。

(2)協働共生体による人間の優位性
原始共同体の社会というのは、自然から得られる恵みの範囲のもとで協働共生体を維持していくこによって、生産(エサの獲得)や消費を他の生物のように個体単位で行うよりも、生存の可能性や条件をはるかに高めていけることにその特質があります。もちろん生産と分配と消費を社会的(分業)に行う生物には、他に蟻や蜂などの群れがありますが、個々人が自己意識を持つという点で、人間は蟻や蜂などとは大きく異なってきます。蟻や蜂などは女王に産卵機能を集中させ、群れ全体が種としてのDNAを継承していくために最も効率の良い社会形態をつくっていくのですが、そこにはDNAの変異以外には、種としても群れとしても(発展的に)変化していく余地はありません。

しかし人間の場合には、個々人が自己意識を持ち、個々人の判断と選択が集合的に積み上がってくることで、協働共生体(共同体)が形成されてきます。これによって人間は、個人においても共同体(社会)においても自然環境等の変化に柔軟に対応し、また成長と発展の契機(原理)をも手にしていくことになるのです。この自分たちの生存に有利であるだけなく、生存の可能性をも高める協働共生体の意義を無意識的に理解しているが故に、狩猟採取の原始共同体社会の人々は、なによりもこの協働共生体の体制を存続させていくことを自分たちの社会の(集合)目的としていくのです。

4.原始共同体における文化の構造
(1)協働共生体を維持する条件
ところで与えられた自然の環境条件のもとで、協働共生体という社会システムを維持存続させていくためには、次の3つの条件を充たしていくことが必要となってきます。第1に自然から得られる実りの範囲内で、共同体の規模を維持していくことです。当たり前の話ですが、自然の生態系循環を乱さないで、継続的に自然からの産物の量を増大させるような技術革新がなされない限り、共同体の規模が自然から得られる恵み以上の大きさとなった場合には大きな問題が生じてくることになります。まず不足を補うために、生態系循環が可能な以上の産物を自然から捕り尽くした場合には、環境が荒廃してもはや自然の実りを期待できず、共同体は飢えで滅びるか、かなり大きなリスクを犯して他の場所に移動せざるを得なくなってきます。あるいは限られた食料・生活資材を共同体内部の人々の間で奪い合うことになり、やはり共同体は崩壊の危機に瀕することになってしまうからです。

第2は共同で狩猟や採取などの労働を行う場合には、病気等特別の事情が無い限り、全員がその労働に参加することが疑いの余地の無いものとなることです。また皆の共同作業で得た産物については、生存に十分な可能な量を、公正な基準で配分を行うことも重要となってきます。そうでなければやはり共同体の内部で争いが起こり、共同体の解体の萌芽となっていくからです。そして第3は、人間の多様な欲望が充足出来る機会を、共同体の全員に平等に提供できるような仕組みをつくることです。これによって極力共同体の成員の葛藤や不満を少なくして、皆の満足度を高めて、共同体が極力平穏に存続していくことが出来るようにしていくのです。ここで言う欲望と言うのは、性的な欲望や嗜好的・享楽的欲望、そしてプライド(自尊心)や自己価値の発揮など、人間が生きていくにあたって欠かすことの出来ない欲望のすべてを意味します。

(2)文化の構造の内容と生成
以上のように原始共同体社会は、自然との共生のもとで協働共生体を維持存続させていくことを社会目的として、上記の3つの条件を充たしていくことによって、自然との資源・エネルギー循環において持続可能でかつ平穏で満足度の高い(ストレスの少ない)社会(共同体)の仕組みを実現していきました。それ故にこの社会構造そのものの変化は小さく、200~300万円年かけて緩慢に変化していくことになったのです。(この間人類の情熱は、社会構造や生産構造を変化させることでなく、この優れた協働共生体による狩猟採取経済という仕組みのもとで、地表の全土に自分たちの生存エリアを広げていくことに向かっていったのです。)

さてこうした原始共同体の社会目標と存続条件を充たしていくためには、共同体を統合・維持していく方向に人々の感性と行動を振り向けていかなければなりません。そのために人間の意識の深層に、文化の構造(内面の価値規範)が形成されていくことになるのです。共同体が存続していくための3つの条件に対し、それぞれどのような内容の文化の構造が形成されていくのでしょうか。またそうした文化の構造は、どのようなプロセスを経て無意識の領域に形成されていくのでしょうか。それが次の課題で、次回のパンセ通信で具体的に見ていきたいと思います。その内容とプロセスが分かれば、文化の構造がその後の時代でどう変化し、現在私たちはどのような文化の構造のもとに生き、それが今どう変質しようとしているのかを探る手掛かりが見えてくるものと思われます。

なお次回のパンセの集いの勉強会は、10月2日月曜日で18時から行います。場所はいつものように渋谷区本町の本町ホームシアターです。お時間許す方はご参加下さい。

P.S. 現在パンセ通信は、No.153まで校正・加筆したものをパンセ・ドゥ・高野山のホームページにアップしております。ご興味のある方は、以下のサイトをご覧下さい。

 『パンセ・ドゥ・高野山』トップページ、http://www.pensee-du-koyasan.com/
 『パンセ通信』のサイト、http://www.pensee-du-koyasan.com/posts/category/4