■2017.10.7パンセ通信No.157『安倍首相の解散総選挙で見えてきた日本政治の地殻変動』
皆 様 へ
1.日本における政治構造の変動の予兆
2.政治的志向の形成
(1)人間の求めと価値観 (2)国家主義と教条主義層、保守層の形成
3.政治支持層の形成、変動、現在の分布
(1)左翼層、リベラル層、中道層 (2)政治支持層の分布モデル
4.支持層と政党のミスマッチ
(1)個人主体の政治支持層の成長 (2)保守穏健層、中間層、リベラル層の切り捨て
(3)無党派層と浮動票の増大
5.日本政治の地殻変動
(1)安倍一強政治 (2)衆議院解散と予想外の展開
(3)更なる想定外の展開 (4)『風』の期待から政治と支持層のマッチングへ
6.2000年代以降の日本の政治構造
(1)与党の政権維持戦略 (2)『風』の影響
7.つくる政治へ
(1)2つの構造変化 (2)日本の民主主義の深化
1.日本における政治構造の変動の予兆
2.政治的志向の形成
(1)人間の求めと価値観 (2)国家主義と教条主義層、保守層の形成
3.政治支持層の形成、変動、現在の分布
(1)左翼層、リベラル層、中道層 (2)政治支持層の分布モデル
4.支持層と政党のミスマッチ
(1)個人主体の政治支持層の成長 (2)保守穏健層、中間層、リベラル層の切り捨て
(3)無党派層と浮動票の増大
5.日本政治の地殻変動
(1)安倍一強政治 (2)衆議院解散と予想外の展開
(3)更なる想定外の展開 (4)『風』の期待から政治と支持層のマッチングへ
6.2000年代以降の日本の政治構造
(1)与党の政権維持戦略 (2)『風』の影響
7.つくる政治へ
(1)2つの構造変化 (2)日本の民主主義の深化
今回のパンセ通信では、この変動の状況を概観しながら、今回の選挙が日本の政治構造に持つ意味を考えていってみたいと思います。その上で、引き続き社会構造がシンプルな原始共同体を対象として、文化のシステムの内の文化構造が形成され、それが保持されていく原理について検討していってみたいとと思います。なお次回のパンセの集いの勉強会は、10月9日(月)が体育の日で休日となっていることからお休みとし、10月16日の月曜日に行います。時間は18時からで、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターと致します。
さらにそこに、その人が身につけてきた人格(感じ方や判断の仕方)や価値観が加わって、様々な政治や国家のあり方についての理想像・期待像が描き出されてくることになります。そこで最初に、個々の人々が抱く基本的な求めや人格・価値観の組み合わせによって、どのような政治観(支持政党)を一般的に持つ傾向が出てくるかについて、整理してみようと思います。その上で、こうした政治観を持つ人々の集団(支持層)と実際の政治勢力(政党)との間に、これまで日本においてどのような対応関係があり、それが今どう変化しようとしているのか、またさらに市民社会の進展を表すどのような新しい動きが現れてきているのかについて、順を追って考えていってみたいと思います。

次に現状の生活環境や文化、経済の仕組みを変えること無く(変えることには大きな不安や恐れ)、生活を向上させていきたいということに大きく心を惹かれる人たちもいます。そういう人たちが大きくは保守ということになるのですが、保守の中にあってもいろいろな政治志向を持つ人たちに分かれてきます。まず自分の利益への関心がより強い人たちと、他者への共感性や全体の利益への配慮の思いが強い人たちとの間で相違が生じてくるでしょう。自分の利益への関心が強い人の内で、現在の体制のもとで経済的利益の保持や利権の拡大を図りたいと思っている人たちから、財界や中小企業を含む経営者層などの経済的保守層が現れてきます。また同じく自分の利益への関心が強い人の内で、財産や地位、名声や家柄や受け継いだ伝統などを守る思いの強い人たちの中から、保守強硬派(右派、タカ派)的な層が出てくるのです。
次いで保守の中でも、他者への共感や全体の利益を配慮する思いの強い人たちがいます。現状の枠組みを崩さないためにも、保守的でない人たちの思いや利益への配慮が必要という思いが心を占める人たちです。こうした人たちの中から、保守穏健派(ハト派、リベラル派)の層が出てくるのです。
他方他者への共感や全体の利益を配慮する思いの強い人たちは、大きな変化や急激な変化を望まず、生活や文化や経済の仕組みを現状に即して時間をかけ、無理なく少しずつ変えていくことに心が惹かれます。急進的な変革は大きな混乱をもたらし、自分を含めて多くの人はついていけないという思いが強まるからです。こうした穏健な改革に心惹かれる人たちの中から、リベラル的な考えを支持する層が誕生してくるのです。
さらに人々の中には、確かに現状の社会に不具合はあるが、それを改革するのではなく、不具合な所だけを改良・改善していけば良いのでは無いかという思いに心を惹かれる人たちもいます。こういう人たちの中から、中道的な考えを支持する層が生まれてくるのです。
極右と極左は対極にあって、政治的信条は180°異なりますが、基本的な求めや心情的な傾向の面では、実は共通する部分が多くあります。また自助・共助、寛容・不寛容の相違で見ると、モデル図式の両極ほど自助性・不寛容性の傾向が強く、真ん中に行くほど共助性・寛容性への志向が強くなると言って良いでしょう。
また自己価値の発揮については、保守や中道層の人々は現状の社会環境に対する満足度が高い(自己の存在意義を見出し易い)ので、今の仕組み(社会ゲーム)の中で自己価値を発揮しようという傾向が高まります。それに対して現状の社会ゲームでは、自分も含めて自己価値を発揮できる機会を十分に持てないと感じる人は、リベラルや左派層に多く、改革によってルールを変更し、これまでの社会ゲームのあり方を変えたり新しく自分たちをもっと生かせる社会ゲームを生み出すことによって、自己価値を発揮しようとする傾向が高まってきます。
日本の場合は、1955年に分裂していた社会党の左派と右派が統一し、保守も合同を果たして自由民主党が結党されて以来、1990年頃まで55年体制という政治の枠組みが出来上がっていました。その当時は、自民党が成長経済を元手に生まれる余剰利益を巧みに配分する利益誘導政治を行い、国家主義的な層からリベラル層までを幅広く取り込む一方で、労総組合を母体する階級的な左派層が社会党を支持するという大きな構図が出来上がっていました。
しかし残念ながら、国民の方はこのようにそれぞれ自分に合った政治観を抱くようになったのに対し、それに対応する政治勢力や政党が、日本ではうまく形成されることが無かったのです。そのために政治的支持層と政治勢力(政党)との間にミスマッチが生じるという事態が生じてしまったのです。特に問題であったのは、人口的にも最も分布の多い保守穏健派から中道、リベラルに至る政治志向を持つ中間層(経済的中所得層)に対して、その利益や価値観を忠実に反映する政治勢力(政党)が生まれてこなかったことです。
一方リベラル層や穏健左派層を代表する政治勢力として結成されたのが民主党でした。しかしそこには極右的志向を持つ政治家から社会主義的思想を持つ政治家まで、様々な政治家が流れ込んできていました。リベラル政党の看板を掲げながら、実際には連合(労働組合)の基礎票やリベラル層の支持を当て込んだ、政治家の選挙互助組織というのが民主党の実態だったからです。自民党とは距離を置く、あるいは何らかの事情で自民党には入れない(戻れない)政治家たちにとって、選挙に当選するための受け皿としての役割を果たしたのが民主党だったのです。しかもその組織的な支持基盤である連合は、大企業の企業労働組合が主体で、自ずと大企業の保守的政策を補完する考え方に影響されることになってくるのです。
こうして保守穏健層や中間層、そしてリベラル層は、国民の間ではそうした政治的志向を持つ層として着実に育ってくるのですが、その志向を受け止める明確な政治勢力が不在なのままという状況が日本に現れてくるのです。つまり政治的支持層はあるのに、その求めに応える政党が無いという状況です。
こうした状況において、自分たちの利益を代表する明確な政治勢力を持たない穏健保守や中道、リベラル層は、必然的に政治的なまとまりを失い、支持政党なしの無党派層や、選挙時における浮動票層となっていきます。これが日本において無党派層や浮動票の多くなった理由です。
しかしこうして浮動しているからこそ、何か既存政治に対抗する受け皿となる政治基軸が出来た場合には、『風』となってその受け皿の方向にマジョリティーである中間層の人々が一斉になびいて行って、大きな政治変動をもたらすことになるのです。日本が新自由主義へと踏み出してから最初に吹いたこうした『風』が、2005年の小泉首相による郵政解散選挙であり、次が2009年の民主党政権の誕生時だったのです。
さて日本のマジョリティーである中間層に受け皿が無いという状況が極まってくるのが、2012年の第二次安倍政権の成立でした。リーマンショック後の経済の低迷や民主党政権による政治的混乱、そして隣国である中国や韓国との対立の激化という状況を受けて成立した自民党安倍政権は、経済的には新自由主義的政策を踏襲して経済界の支持を取り付け、一方で強力な指導力により危機を打開していこうとします。そして安倍政権以外には信頼できる政権は無いという演出をマスコミも操作して行っていくのです。こうしてまず国家主義的な強制力をもって自民党内を統制し、その後の3回の国政選挙に勝利することで、政治的にも安倍一強という政治体制を日本に実現するに至りました。
この結果日本の政治状況は、国民の内面では自分の求めや価値観に応じて様々な政治観を志向する層が成熟している一方で、それに呼応する政治勢力としては、国家主義や保守強硬派、経済的保守勢力を代表する安倍政権しかないという状況に至ったのです。こうした状況のもとでは、潜在化した極右や保守強硬派以外の支持層の動向は、やはり何か自分たちの求めや思いを代弁してくれそうな受け皿が現れると、『風』となって一挙にそちらになびくという現象が現れてきます。それが7月の東京都議会議員選挙における都民ファーストの躍進だったのです。
しかし事態は予想外の展開を見せます。小池東京都知事がすかさず「希望の党」という新党を立ち上げたのです。東京都議会選挙の時と同じように、すでに支持基盤が出来ているのに受け皿のないマジョリティーである中間層(穏健保守・中道・リベラル)を代弁する政治勢力となって、希望の党に向けての『風』が吹くことを期待したのです。『風』ですから政策も人材も重要では無く(小池氏本人がいれば良い)、ただ受け皿となる政党の枠組みさえあれば良いのですから短時間でも準備は可能です。この急展開の新党設立とその準備の速さは、安倍首相も予想外のことであったと思われます。
そして確かに風は吹いたのです。民進党が解体し、実質的に希望の党に合流するという驚天動地の事態が生じたのです。これはある意味当然の成り行きで、4(2)でも述べたとおり、もともと民進党(民主党)は自民党に入れない政治家の生き残りのための選挙互助機能がその本質でしたから、政治家たちは渡りに舟とばかりに新しい「希望の党」に当選の“希望”を託して乗り移って行ったのです。これによって希望の党は、一挙に各選挙区での立候補予定者と支持基盤、そして民進党に蓄えられた選挙資金を手にすることになったのです。まさにかみわざ神業的なウルトラCですね。(こうした段取りが小池都知事と民進党前原代表の間で、事前にどの程度根回しがされていたのかは分かりません)。
この時点で確かに小池都知事は、『風』を受け止めた事を実感し、今回の衆院選が政権選択選挙であることを口にします。そして自分自身の国政への転出も念頭にあったことでしょう。ところが、さらにここでもう1度想定外の事態が生じてしまうのです。それは小池都知事が民進党議員の希望の党への実質的な合流にあたって、リベラル系議員に対する排除の論理を持ち出したことに端を発しました。寛容な保守改革のコンセプトで『風』を呼び込もうとした小池都知事にとっては、当然の踏み絵だったのかもせれませんが。
ところがこの事態に、行き場を失った民進党のリベラル系議員とすでに着実に形成されて成熟しつつあったリベラルの政治支持層が結びつき、立憲民主党が形成されます。この瞬間に、日本の政治は『風』を呼び込む展開からさらにもう1段変質(進化)し、『風』使いの技術を磨いてきたはずの小池都知事の魔力が、思うように通用しなくなってしまったのです。
実際に選挙情勢の展開は、自公vs希望・維新の構図から、自公vs希望・維新vs立憲民主・共産・社民という三極対立の構図に変質していきました。そしてこのことは、想定外の政治展開によって偶発的に引き起こされたという面と、一方ですでにこのように展開すべく有権者の深層でその準備が進んでおり、ただそれに呼応するように現実の事態が表出してきたと捉える両面から、考察していかなければならないことなのです。
戦後日本における有権者の政治選択は、長らく利権(利益誘導)か、労働組合など自分が属する階層における上位団体の組織決定、あるいは個人的な理念(社会主義・共産主義等)をもとに行われてきました。しかし人々の生活水準が向上してきたことと呼応し、4(1)で述べたように1990年代から人々は、次第に自分の求めと感性・価値観にあった政治観を持つ方向に成長し、国民の間ではこれまで述べてきたような分布でくく括れる政治支持層を形成するようになってきます。しかしその一方で、こうした政治支持層に対応する実際の政治勢力(政党)は未形成(あるいはミスマッチ)のままに推移してきました。そのために多くの支持政党無しや浮動票が生じることになり、またそのことが国民への政治への関心を失わせ、投票率の低下を招くようになっていったのです。
この状況に対して政権与党が取った対応は、徹底的に基礎票を固めて増やすことでした。基礎票が多ければ、小選挙区制のもとで投票率が低下すれば、確実に与党が勝利することが出来ます。そのために取った政策が自公連立だったのです。自民党は経済界や商工団体、農協などこれまでの利益誘導政治で培った1,800万票程度の基礎票があります。それに創価学会を支持基盤とする公明党の基礎票(700万票と言われています。)を加えれば、50%程度の投票率では確実に小選挙区制で過半数を維持できる仕組みが出来上がったのです。
ところがたまに無党派の『風』が吹きます。すでにそれぞれの政治観のもとに支持層を形成している国民、特にマジョリティーである中間層の心(要望)を捉える受け皿が出来た時に、その風は吹くことになります。その時には無党派層が一斉に動き出して投票率が上昇し、政権を吹き飛ばすインパクトを与えるに至るのです。しかし仮に民主党政権のように政権交代が行われたとしても、それは『風』によってできたもので確かな基盤が無く、しかもリベラルの支持層に呼応する政治勢力でも無いものですから、時間を置けば瓦解してしまうことになるのです。
今回の解散衆院選挙も、当初は2000年代以降のパターンを繰り返すかに思われました。最初は野党のゴタゴタによるしらけムードにもとづく、投票率の低下による与党の勝ち予測です。次に小池都知事の新党の登場により、これまでにも生じた『風』の吹く選挙の再現です。しかし立憲民主党の設立によって、全く新しい展開の芽が生じてきた可能性があります。日本において初めて、政治支持層と実際の政治勢力(政党)が1対1で結びつく可能性が生じてきたのです。
この展開によって日本では、2つの大きな政治システムにおける地殻変動の生じる可能性が出てきました。1つは保守、中道、リベラルなどのすでに水面下で形成されている政治支持層に対応し、その利益や感性や価値観にあった政治勢力が1対1の対応で再編される可能性です。(保守については、自民党がもう1度穏健保守の利害や感性までをも包含した政党へとシフトする可能性も考えられます。)
そしてもう1つは、こうして再編された政党は利益誘導政党でも組織政党でも無いので、密接な支持層の人々とのコミュニケーションが必要となってきます。そしてこのコミュニケーションの中で、確かに支持層の利益や感性にフィットする政策を紡ぎ出していかねばならなくなるのです。これはもはや耳当たりの良い政策を有権者が選んだり、目立つ政治家に期待を託すような次元ではありません。支持層である市民と政治家(政党)との呼応関係によって、政治が市民によって作られていく構造となるのです。
まさに秋元康さんがAKB48において先験的に示してくれたシステム(アイドルを選ぶのでは無く、アイドルをつくる)が、政治の土壌においても実現し、日本の土壌への民主主義の深い根づきを示すものとなっていく可能性があるのです。
(2)日本の民主主義の深化
もちろんものごとはそうたやす容易く進展するものではありませんが、パンセ通信No.155でも申し上げたとおり、日本は今、幕末維新の先進欧米文化流入のインパクトから150年を経た時点に来ています。そして欧米からの知恵を血肉化し、独自の文化と社会システムを開花させていくための踊り場の時期にあるのです。この時期にこうした日本ならではの民主主義の深化の可能性が現れてくることも、一理あることであるかもしれないのです。 この機会を捉えて、人間と社会の展開の原理をさらに深めて検討し、具体的な次の時代の日本ならではのビジョンとそこに至るプロセスを描く作業を、パンセ通信で引き続き進めていってみたいと思います。ところで今回は、衆議院の解散総選挙を控えてそこで起こりつつある日本の政治環境の地殻変動を描くことに費やしていましいましたが、次回より再び原始共同体社会を対象として、文化構造の形成について考えていってみたいと思います。 なお次回のパンセの集いの勉強会は、10月9日(月)が体育の日で休日となっていることからお休みとし、10月16日の月曜日に行います。時間は18時からで、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターを会場とします。お時間許す方はご参加下さい。 P.S. 現在パンセ通信は、No.153まで校正・加筆したものをパンセ・ドゥ・高野山のホームページにアップしております。ご興味のある方は、以下のサイトをご覧下さい。
『パンセ・ドゥ・高野山』トップページ、http://www.pensee-du-koyasan.com/
『パンセ通信』のサイト、http://www.pensee-du-koyasan.com/posts/category/4
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1.日本における政治構造の変動の予兆
2.政治的志向の形成
(1)人間の求めと価値観 (2)国家主義と教条主義層、保守層の形成
3.政治支持層の形成、変動、現在の分布
(1)左翼層、リベラル層、中道層 (2)政治支持層の分布モデル
4.支持層と政党のミスマッチ
(1)個人主体の政治支持層の成長 (2)保守穏健層、中間層、リベラル層の切り捨て
(3)無党派層と浮動票の増大
5.日本政治の地殻変動
(1)安倍一強政治 (2)衆議院解散と予想外の展開
(3)更なる想定外の展開 (4)『風』の期待から政治と支持層のマッチングへ
6.2000年代以降の日本の政治構造
(1)与党の政権維持戦略 (2)『風』の影響
7.つくる政治へ
(1)2つの構造変化 (2)日本の民主主義の深化
1.日本における政治構造の変動の予兆
2.政治的志向の形成
(1)人間の求めと価値観 (2)国家主義と教条主義層、保守層の形成
3.政治支持層の形成、変動、現在の分布
(1)左翼層、リベラル層、中道層 (2)政治支持層の分布モデル
4.支持層と政党のミスマッチ
(1)個人主体の政治支持層の成長 (2)保守穏健層、中間層、リベラル層の切り捨て
(3)無党派層と浮動票の増大
5.日本政治の地殻変動
(1)安倍一強政治 (2)衆議院解散と予想外の展開
(3)更なる想定外の展開 (4)『風』の期待から政治と支持層のマッチングへ
6.2000年代以降の日本の政治構造
(1)与党の政権維持戦略 (2)『風』の影響
7.つくる政治へ
(1)2つの構造変化 (2)日本の民主主義の深化
1.日本における政治構造の変動の予兆
安倍首相のサプライズ解散で始まった今度の衆議院解散選挙は、日本の政治・社会状況に大きな地殻変動をもたらすかもしれません。いやすでに水面下では地殻変動が起こっており、そこに溜まっていたマグマが衆議院解散を機に一気に噴き出し、それが日本の政治(政党)・社会状況および市民社会の構造にすでに起こっていた変化を、目に見えるようにしただけなのかもしれません。今回のパンセ通信では、この変動の状況を概観しながら、今回の選挙が日本の政治構造に持つ意味を考えていってみたいと思います。その上で、引き続き社会構造がシンプルな原始共同体を対象として、文化のシステムの内の文化構造が形成され、それが保持されていく原理について検討していってみたいとと思います。なお次回のパンセの集いの勉強会は、10月9日(月)が体育の日で休日となっていることからお休みとし、10月16日の月曜日に行います。時間は18時からで、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターと致します。
2.政治的志向の形成
(1)人間の求めと価値観
人間は誰でも自分(と家族)の身の安全が保障され、生活が安定し、次いで生活が次第に向上していくことを求めるものです。また自分の存在意義が認められ、出来れば自分の価値を発揮して可能性を広げて、新しい価値創造も行って社会に貢献していきたいと思っているものです。こうした基本的な求めの内、現在置かれた生活環境や生活の状況によって、どの求めが強くなってくるかは人によって異なってきます。こうして現代においては、人によって国や政治に期待するものは違ってくることになるのです。さらにそこに、その人が身につけてきた人格(感じ方や判断の仕方)や価値観が加わって、様々な政治や国家のあり方についての理想像・期待像が描き出されてくることになります。そこで最初に、個々の人々が抱く基本的な求めや人格・価値観の組み合わせによって、どのような政治観(支持政党)を一般的に持つ傾向が出てくるかについて、整理してみようと思います。その上で、こうした政治観を持つ人々の集団(支持層)と実際の政治勢力(政党)との間に、これまで日本においてどのような対応関係があり、それが今どう変化しようとしているのか、またさらに市民社会の進展を表すどのような新しい動きが現れてきているのかについて、順を追って考えていってみたいと思います。
(2)国家主義と教条主義層、保守層の形成
例えば生活の安定を求めつつ不安感が強く、しかも自分の存在(実存)価値の拠り所にも不安を覚えているような人たちのうちで、国に対する信頼感を持つ人の中には、国家に拠り所を求め、国家による強力な指導(国家主義・国家主権)のもとに不安を解消するための政策が推進されることを求める人が現れてきます。一方で今の世の中(国)には不信感を抱き、別の価値観に自分の存在の拠り所を求めるような人たちの中には、権威主義的(教条的)な左翼団体(極左)や排他的(教条的・不寛容・独善的)な宗教政治団体の中に自分の居場所見つけるたり、共感を覚える人も出てくるでしょう。
次に現状の生活環境や文化、経済の仕組みを変えること無く(変えることには大きな不安や恐れ)、生活を向上させていきたいということに大きく心を惹かれる人たちもいます。そういう人たちが大きくは保守ということになるのですが、保守の中にあってもいろいろな政治志向を持つ人たちに分かれてきます。まず自分の利益への関心がより強い人たちと、他者への共感性や全体の利益への配慮の思いが強い人たちとの間で相違が生じてくるでしょう。自分の利益への関心が強い人の内で、現在の体制のもとで経済的利益の保持や利権の拡大を図りたいと思っている人たちから、財界や中小企業を含む経営者層などの経済的保守層が現れてきます。また同じく自分の利益への関心が強い人の内で、財産や地位、名声や家柄や受け継いだ伝統などを守る思いの強い人たちの中から、保守強硬派(右派、タカ派)的な層が出てくるのです。
次いで保守の中でも、他者への共感や全体の利益を配慮する思いの強い人たちがいます。現状の枠組みを崩さないためにも、保守的でない人たちの思いや利益への配慮が必要という思いが心を占める人たちです。こうした人たちの中から、保守穏健派(ハト派、リベラル派)の層が出てくるのです。
3.政治支持層の形成、変動、現在の分布
(1)左翼層、リベラル層、中道層
一方で自分の生活を守り、さらに向上させて、自分の存在意義や価値を発揮する可能性を増やしていくためには、現在の体制に矛盾を感じ、社会の枠組みを改革していった方が良いという思いに惹かれる人たちがいます。こうした人たちの中にも、やはり自分の価値観への思い入れが強くて排他的な人たちと、やはり他者への共感や全体の利益を配慮する思いの強い人たちがいます。自分の価値観への思い入れの強い人は、自分が惹かれる理想のもとでこそ多くの問題は解決すると信じ、社会を大きくしかも急速に変えることを望みます。こうした人たちの中から、急進的左翼を支持する層の人々が現れてきます。他方他者への共感や全体の利益を配慮する思いの強い人たちは、大きな変化や急激な変化を望まず、生活や文化や経済の仕組みを現状に即して時間をかけ、無理なく少しずつ変えていくことに心が惹かれます。急進的な変革は大きな混乱をもたらし、自分を含めて多くの人はついていけないという思いが強まるからです。こうした穏健な改革に心惹かれる人たちの中から、リベラル的な考えを支持する層が誕生してくるのです。
さらに人々の中には、確かに現状の社会に不具合はあるが、それを改革するのではなく、不具合な所だけを改良・改善していけば良いのでは無いかという思いに心を惹かれる人たちもいます。こういう人たちの中から、中道的な考えを支持する層が生まれてくるのです。
(2)政治支持層の分布モデル
さてここまで、人々がどのような求めにウエイトを置くかということと、個人の人格や価値観との組み合わせで、人々がどのような政治観に心を惹かれる層に分かれてくるかを考えてみました。それを一応現在の右派・左派の基準でイメージし易いように一列に並べてみると、以下のようなモデル図式にまとめてみることが出来るでしょう。極右と極左は対極にあって、政治的信条は180°異なりますが、基本的な求めや心情的な傾向の面では、実は共通する部分が多くあります。また自助・共助、寛容・不寛容の相違で見ると、モデル図式の両極ほど自助性・不寛容性の傾向が強く、真ん中に行くほど共助性・寛容性への志向が強くなると言って良いでしょう。
また自己価値の発揮については、保守や中道層の人々は現状の社会環境に対する満足度が高い(自己の存在意義を見出し易い)ので、今の仕組み(社会ゲーム)の中で自己価値を発揮しようという傾向が高まります。それに対して現状の社会ゲームでは、自分も含めて自己価値を発揮できる機会を十分に持てないと感じる人は、リベラルや左派層に多く、改革によってルールを変更し、これまでの社会ゲームのあり方を変えたり新しく自分たちをもっと生かせる社会ゲームを生み出すことによって、自己価値を発揮しようとする傾向が高まってきます。
(3)政治支持層の変動
なお上記のモデル図式は、あくまでも現在の状況を想定して考えていますので、状況が違えば当然異なってきます。かつての西欧では、資本家や労働者、生計を維持していける程度の資産を持ったプチブル層などの社会階級が明確であったために、社会階層に応じて政治支持層が形成されていました。また社会主義のイデオロギーが健在だった頃は、左派やリベラルは、社会主義・社会民主主義の支持層に含まれることが多いでした。また国や民族の存立に危機を感じる場合には、民族主義的な政治勢力やそれと一体となった宗教勢力を支持する層が大きく現れてくることもあります。日本の場合は、1955年に分裂していた社会党の左派と右派が統一し、保守も合同を果たして自由民主党が結党されて以来、1990年頃まで55年体制という政治の枠組みが出来上がっていました。その当時は、自民党が成長経済を元手に生まれる余剰利益を巧みに配分する利益誘導政治を行い、国家主義的な層からリベラル層までを幅広く取り込む一方で、労総組合を母体する階級的な左派層が社会党を支持するという大きな構図が出来上がっていました。
4.支持層と政党のミスマッチ
(1)個人主体の政治支持層の成長
さて55年体制という日本の政治の枠組みは、1993年の共産党以外の非自民8党連立による細川政権の誕生をもって終焉します。その背景には、バブルの崩壊を機に日本の成長経済が終わり、自民党がもはや利益配分政策を採れなくなったことがあります。また企業別組合をベースとする日本の労働組合も、階級的利害というよりは雇用先の企業と利害を一つにする傾向が強まり、1989年に階級的な労働組合のナショナルセンターであった総評が解体し、合わせて社会党も消滅していきます。こうして利益誘導のしがらみと、労総組合の階級的しがらみの両方から解きれた人々は、その後現在に至るまでの20年ほどの歳月をかけて、次第に自分の求めと価値観に応じた個人ベースの政治的志向を、素直に自分の心の中に醸成していくようになったのです。しかし残念ながら、国民の方はこのようにそれぞれ自分に合った政治観を抱くようになったのに対し、それに対応する政治勢力や政党が、日本ではうまく形成されることが無かったのです。そのために政治的支持層と政治勢力(政党)との間にミスマッチが生じるという事態が生じてしまったのです。特に問題であったのは、人口的にも最も分布の多い保守穏健派から中道、リベラルに至る政治志向を持つ中間層(経済的中所得層)に対して、その利益や価値観を忠実に反映する政治勢力(政党)が生まれてこなかったことです。
(2)保守穏健層、中間層、リベラル層の切り捨て
そうなったことの第1の原因は、グローバル経済競争の激化とそれに伴う新自由主義の台頭です。バブル崩壊後の1990年代の日本は、金融危機に見舞われて経済も低迷し、日本が生き残るためには企業競争力を強化して経済を強くせねばならないというコンセンサスがありました。こうして誕生したのが小泉政権で、主に大企業の競争力を強化する政策が推進され、郵政や農協、中小商工業者の利権やサラリーマンの権益(正社員から非正規へ、労働コストの切り下げの対象等)などが切り捨てられていきました。つまり結党以来中間層を幅ひろく取り込んできた自民党の政策が、経済層と保守強硬派層の利益を代弁するものへと変質していったのです。一方リベラル層や穏健左派層を代表する政治勢力として結成されたのが民主党でした。しかしそこには極右的志向を持つ政治家から社会主義的思想を持つ政治家まで、様々な政治家が流れ込んできていました。リベラル政党の看板を掲げながら、実際には連合(労働組合)の基礎票やリベラル層の支持を当て込んだ、政治家の選挙互助組織というのが民主党の実態だったからです。自民党とは距離を置く、あるいは何らかの事情で自民党には入れない(戻れない)政治家たちにとって、選挙に当選するための受け皿としての役割を果たしたのが民主党だったのです。しかもその組織的な支持基盤である連合は、大企業の企業労働組合が主体で、自ずと大企業の保守的政策を補完する考え方に影響されることになってくるのです。
こうして保守穏健層や中間層、そしてリベラル層は、国民の間ではそうした政治的志向を持つ層として着実に育ってくるのですが、その志向を受け止める明確な政治勢力が不在なのままという状況が日本に現れてくるのです。つまり政治的支持層はあるのに、その求めに応える政党が無いという状況です。
(3)無党派層と浮動票の増大
こうした状況において、自分たちの利益を代表する明確な政治勢力を持たない穏健保守や中道、リベラル層は、必然的に政治的なまとまりを失い、支持政党なしの無党派層や、選挙時における浮動票層となっていきます。これが日本において無党派層や浮動票の多くなった理由です。
しかしこうして浮動しているからこそ、何か既存政治に対抗する受け皿となる政治基軸が出来た場合には、『風』となってその受け皿の方向にマジョリティーである中間層の人々が一斉になびいて行って、大きな政治変動をもたらすことになるのです。日本が新自由主義へと踏み出してから最初に吹いたこうした『風』が、2005年の小泉首相による郵政解散選挙であり、次が2009年の民主党政権の誕生時だったのです。
5.日本政治の地殻変動
(1)安倍一強政治
さて日本のマジョリティーである中間層に受け皿が無いという状況が極まってくるのが、2012年の第二次安倍政権の成立でした。リーマンショック後の経済の低迷や民主党政権による政治的混乱、そして隣国である中国や韓国との対立の激化という状況を受けて成立した自民党安倍政権は、経済的には新自由主義的政策を踏襲して経済界の支持を取り付け、一方で強力な指導力により危機を打開していこうとします。そして安倍政権以外には信頼できる政権は無いという演出をマスコミも操作して行っていくのです。こうしてまず国家主義的な強制力をもって自民党内を統制し、その後の3回の国政選挙に勝利することで、政治的にも安倍一強という政治体制を日本に実現するに至りました。
この結果日本の政治状況は、国民の内面では自分の求めや価値観に応じて様々な政治観を志向する層が成熟している一方で、それに呼応する政治勢力としては、国家主義や保守強硬派、経済的保守勢力を代表する安倍政権しかないという状況に至ったのです。こうした状況のもとでは、潜在化した極右や保守強硬派以外の支持層の動向は、やはり何か自分たちの求めや思いを代弁してくれそうな受け皿が現れると、『風』となって一挙にそちらになびくという現象が現れてきます。それが7月の東京都議会議員選挙における都民ファーストの躍進だったのです。
(2)衆議院解散と予想外の展開
それでは今現在は、いったいどういう政治状況になっているのでしょうか。何が急速に変化し、(冒頭に述べたように)日本の政治構造の地殻変動を表す状況が現れてきているというのでしょうか。まず森友・加計疑惑で追い込まれ、東京都議会選挙で惨敗した安倍首相は、8月に自民党内の国家主義的勢力以外からの人材登用を強いられた内閣改造を行います。この内閣が成果を上げてくれば、自民党内の国家主義以外の層も勢力を盛り返し、来年9月の自民党総裁選挙では、せっかく開いた自分の3選への道を、安倍首相は閉ざされかねない事態が生じてくることにもなります。しかし日本の危機的状況(?)を指導できるのは自分しか無いと信じている安倍首相は、小池東京都知事の全国政党展開の準備が整わず、また民進党が党首選や山尾志桜里議員のスキャンダル等で党内の求心力を失っているチャンスを捉えて、衆議院解散という賭けに打って出たのです。それは自公与党にとって有利な機会を見極めたからというよりも、与党内での自分自身の政権基盤を維持することが目的だったと言って良いでしょう。しかし事態は予想外の展開を見せます。小池東京都知事がすかさず「希望の党」という新党を立ち上げたのです。東京都議会選挙の時と同じように、すでに支持基盤が出来ているのに受け皿のないマジョリティーである中間層(穏健保守・中道・リベラル)を代弁する政治勢力となって、希望の党に向けての『風』が吹くことを期待したのです。『風』ですから政策も人材も重要では無く(小池氏本人がいれば良い)、ただ受け皿となる政党の枠組みさえあれば良いのですから短時間でも準備は可能です。この急展開の新党設立とその準備の速さは、安倍首相も予想外のことであったと思われます。
(3)更なる想定外の展開
そして確かに風は吹いたのです。民進党が解体し、実質的に希望の党に合流するという驚天動地の事態が生じたのです。これはある意味当然の成り行きで、4(2)でも述べたとおり、もともと民進党(民主党)は自民党に入れない政治家の生き残りのための選挙互助機能がその本質でしたから、政治家たちは渡りに舟とばかりに新しい「希望の党」に当選の“希望”を託して乗り移って行ったのです。これによって希望の党は、一挙に各選挙区での立候補予定者と支持基盤、そして民進党に蓄えられた選挙資金を手にすることになったのです。まさにかみわざ神業的なウルトラCですね。(こうした段取りが小池都知事と民進党前原代表の間で、事前にどの程度根回しがされていたのかは分かりません)。
この時点で確かに小池都知事は、『風』を受け止めた事を実感し、今回の衆院選が政権選択選挙であることを口にします。そして自分自身の国政への転出も念頭にあったことでしょう。ところが、さらにここでもう1度想定外の事態が生じてしまうのです。それは小池都知事が民進党議員の希望の党への実質的な合流にあたって、リベラル系議員に対する排除の論理を持ち出したことに端を発しました。寛容な保守改革のコンセプトで『風』を呼び込もうとした小池都知事にとっては、当然の踏み絵だったのかもせれませんが。
(4)『風』の期待から政治と支持層のマッチングへ
ところがこの事態に、行き場を失った民進党のリベラル系議員とすでに着実に形成されて成熟しつつあったリベラルの政治支持層が結びつき、立憲民主党が形成されます。この瞬間に、日本の政治は『風』を呼び込む展開からさらにもう1段変質(進化)し、『風』使いの技術を磨いてきたはずの小池都知事の魔力が、思うように通用しなくなってしまったのです。
実際に選挙情勢の展開は、自公vs希望・維新の構図から、自公vs希望・維新vs立憲民主・共産・社民という三極対立の構図に変質していきました。そしてこのことは、想定外の政治展開によって偶発的に引き起こされたという面と、一方ですでにこのように展開すべく有権者の深層でその準備が進んでおり、ただそれに呼応するように現実の事態が表出してきたと捉える両面から、考察していかなければならないことなのです。
6.2000年代以降の日本の政治構造
(1)与党の政権維持戦略
戦後日本における有権者の政治選択は、長らく利権(利益誘導)か、労働組合など自分が属する階層における上位団体の組織決定、あるいは個人的な理念(社会主義・共産主義等)をもとに行われてきました。しかし人々の生活水準が向上してきたことと呼応し、4(1)で述べたように1990年代から人々は、次第に自分の求めと感性・価値観にあった政治観を持つ方向に成長し、国民の間ではこれまで述べてきたような分布でくく括れる政治支持層を形成するようになってきます。しかしその一方で、こうした政治支持層に対応する実際の政治勢力(政党)は未形成(あるいはミスマッチ)のままに推移してきました。そのために多くの支持政党無しや浮動票が生じることになり、またそのことが国民への政治への関心を失わせ、投票率の低下を招くようになっていったのです。
この状況に対して政権与党が取った対応は、徹底的に基礎票を固めて増やすことでした。基礎票が多ければ、小選挙区制のもとで投票率が低下すれば、確実に与党が勝利することが出来ます。そのために取った政策が自公連立だったのです。自民党は経済界や商工団体、農協などこれまでの利益誘導政治で培った1,800万票程度の基礎票があります。それに創価学会を支持基盤とする公明党の基礎票(700万票と言われています。)を加えれば、50%程度の投票率では確実に小選挙区制で過半数を維持できる仕組みが出来上がったのです。
(2)『風』の影響
ところがたまに無党派の『風』が吹きます。すでにそれぞれの政治観のもとに支持層を形成している国民、特にマジョリティーである中間層の心(要望)を捉える受け皿が出来た時に、その風は吹くことになります。その時には無党派層が一斉に動き出して投票率が上昇し、政権を吹き飛ばすインパクトを与えるに至るのです。しかし仮に民主党政権のように政権交代が行われたとしても、それは『風』によってできたもので確かな基盤が無く、しかもリベラルの支持層に呼応する政治勢力でも無いものですから、時間を置けば瓦解してしまうことになるのです。
今回の解散衆院選挙も、当初は2000年代以降のパターンを繰り返すかに思われました。最初は野党のゴタゴタによるしらけムードにもとづく、投票率の低下による与党の勝ち予測です。次に小池都知事の新党の登場により、これまでにも生じた『風』の吹く選挙の再現です。しかし立憲民主党の設立によって、全く新しい展開の芽が生じてきた可能性があります。日本において初めて、政治支持層と実際の政治勢力(政党)が1対1で結びつく可能性が生じてきたのです。
7.つくる政治へ
(1)2つの構造変化
この展開によって日本では、2つの大きな政治システムにおける地殻変動の生じる可能性が出てきました。1つは保守、中道、リベラルなどのすでに水面下で形成されている政治支持層に対応し、その利益や感性や価値観にあった政治勢力が1対1の対応で再編される可能性です。(保守については、自民党がもう1度穏健保守の利害や感性までをも包含した政党へとシフトする可能性も考えられます。)
そしてもう1つは、こうして再編された政党は利益誘導政党でも組織政党でも無いので、密接な支持層の人々とのコミュニケーションが必要となってきます。そしてこのコミュニケーションの中で、確かに支持層の利益や感性にフィットする政策を紡ぎ出していかねばならなくなるのです。これはもはや耳当たりの良い政策を有権者が選んだり、目立つ政治家に期待を託すような次元ではありません。支持層である市民と政治家(政党)との呼応関係によって、政治が市民によって作られていく構造となるのです。
まさに秋元康さんがAKB48において先験的に示してくれたシステム(アイドルを選ぶのでは無く、アイドルをつくる)が、政治の土壌においても実現し、日本の土壌への民主主義の深い根づきを示すものとなっていく可能性があるのです。
(2)日本の民主主義の深化
もちろんものごとはそうたやす容易く進展するものではありませんが、パンセ通信No.155でも申し上げたとおり、日本は今、幕末維新の先進欧米文化流入のインパクトから150年を経た時点に来ています。そして欧米からの知恵を血肉化し、独自の文化と社会システムを開花させていくための踊り場の時期にあるのです。この時期にこうした日本ならではの民主主義の深化の可能性が現れてくることも、一理あることであるかもしれないのです。 この機会を捉えて、人間と社会の展開の原理をさらに深めて検討し、具体的な次の時代の日本ならではのビジョンとそこに至るプロセスを描く作業を、パンセ通信で引き続き進めていってみたいと思います。ところで今回は、衆議院の解散総選挙を控えてそこで起こりつつある日本の政治環境の地殻変動を描くことに費やしていましいましたが、次回より再び原始共同体社会を対象として、文化構造の形成について考えていってみたいと思います。 なお次回のパンセの集いの勉強会は、10月9日(月)が体育の日で休日となっていることからお休みとし、10月16日の月曜日に行います。時間は18時からで、場所は渋谷区本町の本町ホームシアターを会場とします。お時間許す方はご参加下さい。 P.S. 現在パンセ通信は、No.153まで校正・加筆したものをパンセ・ドゥ・高野山のホームページにアップしております。ご興味のある方は、以下のサイトをご覧下さい。
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